三、おもてなし(5)

「どうぞ箸付けて下さい。お嫌でなかったら。」
「嫌なわけないですよ。」
仲毅は犬のようにペロリと舌舐めずりをしながら、ほかほかと湯気を立てている一皿に箸を伸ばす。ああ旨そう! なにそのトローリとしたやつ? どうですか、お味は?
「…………。」
無言かよ。なにそのうるうるしたつぶらな瞳。旨そうな顔しやがって。憎たらしいぜ。仲毅はプハ~と溜息をつきながらうっとりした表情で訊ねた。
「これ、なんですか?」
「ドジョウだよ。紅焼泥鰍ホンシャオニイチウ。」
隊長の私物の中に、桶に入った泥鰍どじょうがあるのが気になっていたんだ。こいつドジョウなんて可愛がって飼ってるのかよ、キショい奴、と思っていたが、まさか食う気だったとは。仲毅が二口目をほおばった瞬間にすかさず酌をする隊長。
「よし、今だ、飲め! ドジョウと蜀黍コーリャン酒は相性抜群。乾!」
「乾! ――。」
嬉しそうに飲みやがって。うらやましい。プハ~って、いちいちうるせえな、仲毅! で、次は何食うの? ああそれね、なんか銀杏ぎんなんみたいのが入った豆腐みたいなやつ。でどう、お味は?
「…………。」
無言かよ。いちいち幸せそうな顔しやがって。仲毅の幸せそうな表情を、隊長は嬉しげに眺めながら酌をする。
「あ、前菜からとか、なんか順番あるんですよね。」
「いいじゃん食いたいように食えば。主賓が満足して下さればいいんです。はい乾杯!」
「乾! ――。」
手料理でおもてなしじゃなくて、美酒で酔いつぶす会になってないだろうか。仲毅のやつ、もう赤くなってんじゃん。瞳を輝かせながら膳を眺め、空豆の醤油煮のようなものを口にする。でどう、味は?
「…………。」
無言で二つ三つと立て続けに食う。へえ、そんなに旨いの。一見どうってことなさそうな一品だけど。
「この、なんか、何気ない豆おいしいです。」
蚕豆ツァンドウね。干してあるのを水で戻すんじゃなくて、酒でもどしたんだ。」
隊長の私物の中に、豆の入った酒があるのが気になっていたんだ。こいつこんなへんてこな酒を飲むのかよと思っていたが、まさか豆のほうを食う気だったとは。
「仲毅は酒の匂いがすると嬉しくなっちゃう人?」
「自覚はなかったんですけど、そうかもしれません。」
ニヤニヤと互いに目を見かわしながら当たり前のように乾杯する。
「乾!」
「乾! ――。」
仲毅のやつ、ニコニコしすぎだろう。赤い顔しやがって。
「ああ、なんだか気持ちよくなってきましたよ。明るいうちから。」



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