三十、春雨(6)

 またたく間に全員城頭に集合し、勝ちどきをあげて意気揚々と飯を食う。旨いです。旨すぎる。春雨、伸びてないじゃないか。ちょうどいい。お肉の旨い汁をほどよく吸っている。
 よその什に混じってご機嫌で春雨をすすっている隊長をにらみつける。ぜったいどうかしてる。旨すぎるんだ。俺はお行儀悪く椀を持ちながら隊長ににじり寄り、斜め後ろから不気味な思いで隊長を眺めまわしている。っていうかたぶん、傍目はために見れば俺のほうが不気味な奴だ。
「隊長、後ろで不気味な勤務兵が隊長のことをガン見してますよ。」
あ、言われた。
「どうりでさっきから背中に鳥肌立つわけだ。ご用でしょうか、勤務兵殿。」
「質問です。」
「はい。なんでしょう。」
「あのお、初めて三百里を歩いた時に、城壁を登ったあと鍋の中に飯が用意してありましたけど、あれは隊長が妖術で出したものだったんですか?」
「違うよ。今日みたいに炊事班に準備しといてもらった。あの時は鍋だけだったけど、今日は自分達で火を焚く元気もないだろうと思って人手もお願いしたわけ。」
「めっちゃ元気ですけど。」
「それは目の前にほかほかご飯があるからだろ。」
「ぜったいおかしいですよ。うますぎです。」
「そりゃあ五日ぶりにまともに煮炊きしたものを食うんだもん。旨いよ。」
「そうじゃなくって、都合よく行きすぎ。突然思いついて無計画に飛び出したのに、どうして五日目のキッチリこの時間に着くって分かるんですか? しかも一人も欠けずに全員踏破って、おかしいでしょう。なんなんですか? 奇跡? 強運の持ち主?」
「偶然みたいにしてポロっと成功してるように見えるかもしんないけど、俺この遠足を無事に引率するために一カ月くらい前からいろいろ準備してたぜ。」
「えっ、いろいろって、何を?」
「みんなの心身の状態をそこに向けて整えたり、天気はどうかなぁって考えたり、道の状況を調べたりさ。地勢図を見ながら、たぶんここらで集中力切れてくるからなんかおやつでも用意しとくかなって計画たてたりな。」
「え~、でも五日前の朝に突然思いついて急に出発しましたよね?」
「いやあ、あれはたまたま、そろそろ遠足に行こうかなって思ってる矢先に面白い消息を聞いたからね、それにかこつけて出発したら盛り上がるだろうと思ってそういう話し方をしただけだ。」
「ふうん。じゃあ計画的犯行だったわけだ。」
「なんだ犯行って。」
隊長はおかしそうに笑った。
「世の中、偶然のように見えることも案外偶然じゃねえことが多いんだろうぜ。」



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