三十三、密命(4)

「ふうん。陳屯長はそういうふうに思わされているんですね。それはきっと張屯長が陳屯長の前ではお利口さんに見られるようにつくろっているだけですよ。隊長と二人で雑談している時なんか、馬鹿全開で真面目の要素なんかひとかけらもありませんよ。」
「言い過ぎだろう。」
「まじめな目的で隊長の立ち寄り場所を知りたいっていうんなら、面と向かって隊長にそう言えばいいんです。隊長はお堅い人だから、行方不明になったら人に迷惑かかるっていうことを理解すれば絶対あっさり行く先を教えてくれますよ。」
「まあ、あんまり自由がないのも気の毒だからな。」
「え、自由なご身分じゃないですか。我々の方がよっぽど自由ないですよ。」
「なに言ってるんだ。お前たちはいつ何をやっても自分が叱られるだけだろ。長と名の付く人は大変なんだ。」
「だから屯長、十歳老けて見えるんですね。一方、隊長が三十歳若く見えるのが不思議ですが。」
「あの人、精神年齢が五歳だからな。」
ふうん。陳屯長、長と名の付く人は大変だと思いながらやってるわけか。同病相憐れむってやつだな。
「俺が知りたいと思っているのは、実は立ち寄り先ではなく、隊長のふところ具合だ。」
「え。下衆な好奇心。」
「好奇心じゃない。親身になって心配してるんだよ。おせっかいかもしれないが。いろいろバラ撒き過ぎだろう。結婚資金をめとかないとだめじゃないか。」
「え~、そんなことまで心配してやんの面倒くせえ。いいじゃないすか。大人なんだから。放っときましょうよ。」
「あの人、子供じゃないか。」
「ああそっか。面倒くさ。で、何て言って同行すればいいですか?」
「シャバの空気を吸いたいから一緒に連れてって下さいよ、っておねだりすれば同行できるだろう。」
「え~、なんかそれ馬鹿っぽい。俺らしくないす。」
「いや。お前らしい。お前は何かやりたいと思ったら正面きってあつかましくお願いする奴じゃないか。」
「ああそうでした。」
「有無を言わさぬ気迫と能弁で相手を思う通りに動かさずには済まさない奴だ。」
「え、それなんか偉人っぽいですね。」
「偉い奴だと思ってるんだぞ。」
「ああそうだったんですね。へえ。分かりました。じゃあ同行致しますが、自分がくっついて行っちゃったら隊長いつも通りに振舞わないんじゃないですかね。しっぽを隠すと思いますよ。」
「雰囲気だけ見ておいてくれればいいから。」
「おおざっぱだなあ。」
「つべこべ言ってないで、行けと言われたら大人しく行けよ。」
「作戦の意義なり目的なりを理解していないと、咄嗟とっさの場合に判断を間違うんですよ。」
「お前は戦略家か? 兵隊なんだから言われた通りに動けばいいんだ。」
「それ隊長の持論と矛盾してるんですよ。」
陳屯長はふうっと溜息をついた。
「まったく、困った人だなあ……。」



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