三十六、譫言(うわごと)(3)

「喘息ってふつう、天候の変わり目とかほこりっぽい空気を吸っちゃったとか、そういう要因で起こるものなんじゃないんですか? 隊長、変ですよね。痛い目に遭ったとかいじめられたとかそういうので具合悪くなるじゃないですか。なんなんですか? まさか自分をいじめた相手へのいやがらせとしてわざとやってるってわけじゃないでしょうね。」
「これほとんど精神的なもんなんじゃねえかな。目いっぱい運動したって気候が激変したってなんともねえのによ、精神的にイライラっとするとすぐヒューっていっちゃう。恐らく、身体的には健康そのものであるのに精神力で肉体を制御してんじゃねえのかな。もうイヤだ! ムリ! っていう心の声を、肉体を破壊することによって表現するという……。」
「なに面白そうにニヤニヤしながら言ってんですか。不謹慎じゃないですか。」
「わざとやってるわけじゃねえよ。無意識のうちに自分で自分に制約を加えちまうってのはありえねえ話じゃねえ。無意識なだけに解消が難しいな。うちの部隊にも気になる奴が一人いるんだよ。」
「そんなひどい喘息の奴いましたっけ。」
「いや、喘息じゃないけど。しょっちゅう怪我してる奴いるじゃん? 誰とは言わねえが。」
劉仲允りゅうちゅういんですか?」
「いや、あいつは単純に健康的に暴れてその結果怪我してるだけだ。そういうおっきい怪我じゃなくってさ、なんか、指をどっかに挟んで腫れちゃったとか、足の上になんかおっことして血豆できちゃったとか、そういうちっちゃい怪我をしょっちゅうしてる奴いるじゃん。誰とは言わねえが。」
「そんな奴いますかね。誰ですか?」
「誰とは言わねえよ。」
「え、まさか俺のこと言ってるんですか?」
「違います。季寧はすげえ落ち着いてんじゃん。愛情たっぷりの家庭でなんの不安もなく育ったんだろうな。」
「家庭環境なんか、関係あるんですか?」
「たぶんね。これは推測だけど、アイツお兄さんも弟さんも年子だから、あんまかまってもらえねえで育ったんじゃねえかな。たまになんか怪我した時だけみんながかまってくれる。だからちょくちょく怪我する癖がついちまったんじゃねえかな。」
「え~、注目を集めるためにわざと怪我してるってことですかあ?」
「無意識だと思うぜ。季寧には想像もつかないだろうけどな。あいつ、なんか怪我するたんびにいちいち嬉しそうに見せに来るけどよ、そういう時に同情してかまってやってるとだめなんだろうな。そういう時には無関心に突き離して、普段のなんでもない時にめいっぱい褒めたりかまったりしてやらないとあの癖は治らないだろう。」



《広告》

ページ公開日: 最終更新日: