三十七、小友(2)

 この一幕のことなんかすっかり忘れ、午後もごく普通にしごかれ、夕方の立ち合いの時間になる。その時間、俺は周子儀の孫弟子から軍刀術の指導を受けるんだ。なんだかあれこれいじられるが、これ、ちゃんと合ってんのかな。子儀の弟子くらいまではちゃんと他人への指導もできそうだが、孫弟子となると心もとない。こんど子儀に俺の軍刀術を見せてやろっかな。「見ろ! お前の曾孫ひまご弟子でしの出来はこんなものだ!」って。それを見て子儀がなんか違うぞって思ったら、どこで間違ったかさかのぼって調べればいいんだ。伝言ごっこのようだ。
 立ち合いの連中は相変わらずワアキャア言っている。隊長もゲラゲラと笑っている。……長えな。いつまでゲラゲラ笑ってるんだ? 見ると、鳥さんの時計が倒されており、隊長が地べたに座りこんでゲラゲラと笑っており、周りの連中がおろおろと立ち歩いている。オイオイ、なんなんだ? まさか隊長、「お前の母ちゃんでべそ」って言われて怒り狂って、怒り過ぎて発狂したんじゃあるまいな? 王什長に声をかけてみる。
「什長~、隊長を見に行っていいすかね? なんか、発狂してるっぽくないですか?」
「どれどれ? あ、ほんとだ~。陳屯長~、隊長がなんかとめどなく笑ってま~す。張季寧を行かせていいですかあ?」
陳屯長は面倒くさそうに隊長を見やると、
「季寧、来い。他の者は軍刀術を続けるように。」
と言って俺を従えて隊長のところに歩いて行く。
 俺達がすぐ傍まで来ても、相変わらずゲラゲラと笑っている。
「あのお、なんでいつまでも大爆笑してるんですか? 発狂したんですか?」
「ギャハハハハ。発狂はしてない。骨折した。」
「え、大丈夫ですか?」
「ギャハハハハ。大丈夫じゃねえって言わせたいかよ。」
「えっ、大丈夫じゃないんですか? エエ~、面倒くせえ。」
「ギャハハハハ。」
陳屯長が呆れ顔で
「笑ってる場合ですか。」
と言う。
「ギャハハハハ、笑うしかないね。ギャハハハ。いや、待て、笑う他にやることいろいろあるぞ。えっとね、まずお医者さん呼ぶじゃん? んで固定してもらって、冷やしたりとかさ。ギャハハハハ。」
「誰か医者を呼びにやりましたか?」
「ギャハハハハ、まだ。お医者さん呼びに行きたい人いる? 先着二名様。」
七、八人がバラバラと手を挙げて、そのうちの二名を指名して軍医を呼びに走らせる。隊長はまだへらへらと笑っている。
「呼びつけるのも悪いけどさあ、固定しないまんまウロウロ歩いて複雑骨折みたくなったらやっかいだもんね~。」



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