三十七、小友(3)

「なんでそんな愉快そうな顔してるんですか?」
「いやあ、面白かったんだよ。すっげえきれいにパーンといったからさあ。いい音したよなあ。」
立ち合いの連中は引き気味に苦笑いしている。隊長と立ち合いをしていたらしき王季信おうきしんがおずおずと
「申し訳ありませんでした。」
と謝った。
「謝るな。俺は嬉しいぜ。っていうのはべつに俺が身体的に痛めつけられて喜んじゃう変態だっていう意味じゃないからな。」
ホントかよ。俺は呆れて訊ねた。
「え~、じゃ何が嬉しいんですかあ?」
「なんか、お見事だったからさ。季信がふと明後日あさってなほう向いたから、えっ何? と思って一緒にそっち見ちゃった。そういうひっかけをやれって教えたのは俺だけどよ、ああも自然にできる奴がいるとは思ってなかった。見くびってたね。」
痛そうにヒイヒイいいながらへらへら笑いながらぺちゃくちゃしゃべっている。とりたててやせ我慢をするわけでもないのにさほど痛々しくも見えないなんて、ほんとおかしな人徳だな。

 終礼を済ませ、部屋に戻って「痛て~痛て~」とへらへら笑いながら片腕を吊った不自由な動作でお茶を淹れ始める。
「あー、お茶はいいねえ。気を落ち着かせるには最高の薬だねえ。」
「そうですね。ちょっと笑いすぎですもんね。少し落ち着いた方がいっすよ。」
「笑ってなかったら泣いちゃう。痛すぎ。」
「じゃあじっとしてたほうがいいんじゃないんですか? 動き回ってるからいちいち響くんですよ。」
「う~ん、でも動かずにじーっと痛てえ痛てえって思い続けてたらイライラしちまうな。」
「ふうん。じゃ放っときます。」
ルンルンとお茶うけを選んでいる。どう見ても嬉しそうだ。
「あのお、なんで不覚をとったんですか?」
季信きしんが上手だったからだよ。」
仲允ちゅういんが外野からなんかいろいろ嫌な事を言って来たから気が散ったってわけじゃないでしょうね?」
「う~ん、なんかゴチャゴチャほざいてたから後でとっちめてやろうとは思ってたけど。」
「ああ、やっぱそういう神経戦弱いんですね……。」



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