三十七、小友(6)

「ってことは、やっぱ今日の不覚はわざとなんですか?」
「っつうか制御不能。季信がひっかけをやってるのは見て分かってたんだけどさ。なんか、何故かわざわざそれにひっかかるように動いちゃった。一旦そっちに重心いっちゃったらもう動作の修正間に合わねえからよ、ああマズイぞ、ぜってえ折れる、って思いながら季信の木刀をガン見してたな。そう思ってから実際にボキっていうまでの時間のまあ長かったこと。怪我する時ってどうして時間がゆっくりになるんだろうなあ。」
「わざわざ怪我するほうに動くなんて、おかしな霊感ですねえ。」
「あそこで折れてなかったら、次の一手で死んでたかもよ。あれをかわしたらそのまんま後ろに抜けて腰を打たれそうだったからよ。腰を強打するって案外危険じゃん? もだえ苦しんで血尿出して真っ青になって死んじゃうってこと稀にあるだろ?」
「じゃあ、それは隊長、霊感じゃないですよ。季信の一手先まで読んでご自身の判断で危険を回避したんじゃないんですか?」
「ふうん。ってことは、あの体勢に持ち込んだ時点で季信の勝ちだったってことか。」
「季信のやつ、絶対そんな自覚なしにやってますよ。隊長が骨折しなかったら季信はなんにも考えずに次の一手を思いっきりやったんだろうし、それが急所を外れていれば何事もなく時間一杯立ち合いやって終わっただけだろうし、もし急所を打っちゃって隊長が死んでもビックリして慌てるだけだったでしょうね。我々みんなどうやったら人体が破損するとか死ぬとかなんにも知識なしに思いっきりやってるんですから、危険極まりないですよ。」
「そうだね。ま、殺し合いの練習をしてるんだからいいんじゃない。練習で相手を破壊したり殺したりしないように気を付けながらやる習慣がついちまったら、本番で敵に殺されるもんな。ここは武道教室じゃねえ。軍隊なんだから。」
「そういう隊長はどうなんですか? いっつもみんなに怪我させないようにものすごーく気を付けながらやってるじゃないですか。そんなことで敵と闘えるんですかあ?」
「俺は闘わないよ。闘うのはみんなじゃん。俺はもう戦士じゃねえだろ。この手で敵兵を打ち倒すなんてことは、十年に一度あるかないかだろう。」
「エ~、隊長、闘わないんですかあ?」
「そ。俺の仕事は闘うことじゃなくって、闘う人たちを誘導することです。」
「ウソだよお。なんか、前に自分で飛刀投げて敵の弓の隊長を殺害してたじゃないですか。」
「おおそうだっけ。じゃ次の殺人はきっと十年後だな。」
「十年に一人ずつ殺害する……間隔の長い連続殺人。」
「それ殺人鬼っぽいな。」
へらへらと笑いながらお茶を飲みきって、片手で茶器を片付けにかかる。
「あ、それ自分やりますよ。」
「ああすみません、じゃ悪いけどお願いします。」
っていうかそれ普通に勤務兵の仕事です。片腕不自由とか関係なしに。手持てもち無沙汰ぶさたに左手で頬をぴしゃぴしゃ叩きながらへらへらと笑って見てやがる。何が楽しいんだか。



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