三十七、小友(9)

 陳屯長にお茶を勧め、自分もお茶を飲みながら静かに待っている。と思いきや、大人しく待っていられない様子で何やら判例集のような体裁のものを読み始めた。二巻読み、三巻目を開いたところで陳屯長が
「書き終わりました。ご確認お願いします。」
と言った。隊長はちらっと見ただけでにっこりと笑い
「ありがとうございます。完璧です。じゃさっそくこれ一緒に将軍のとこに持って行こ。」
と言いながら文書を持って立ち上がり、それを陳屯長に渡して陳屯長のひじつかみながらさっそく部屋の外に向かって歩き出そうとした。
「まだ墨が乾いてませんよ。」
「大丈夫大丈夫、歩いてるうちに乾くから。どうせ見せる時に開くんだからこのままピロピロさせて持って行こ。機密文書でもないし。」
「なんてせっかちなんだ。そしてなぜ私を伴って行く必要があるんですか?」
「っていうか陳さんが将軍にこれ説明してよ。俺が書いたわけじゃないから内容分かんないし。」
「分からないわけないでしょう。」
「っつうか字もきれいだし体裁も整ってるし、こんなデキる部下がいますって将軍に自慢しに行こ。そしたら俺がアホでも陳さんのこと信頼してうちにいい仕事を回してくれるかもよ。」
「べつになにも私を売り込むことないじゃないですか。」
「お宝は箪笥たんすの中にしまいこんでおくものじゃなくて見せびらかして自慢するものだよ。」
ニヤニヤしながら陳屯長の背中を押してトットコ部屋を出て行ってしまった。お宝かよ。どうして突然陳屯長をおだてにかかったのかな。陳屯長に事務処理を押しつけて自分が自由に遊び回る時間を確保しようという魂胆だろうか。

 再び茶器を片付けにかかる。クンクン。変な匂い。お茶なんて、どこがおいしいんだろう。茶葉のまんまでも充分苦いが、そのうえさらに香辛料まで加えるなんて、気が知れない。上流階級の連中はきっといろんなものを飲み食いしすぎて舌が馬鹿になっているんだろう。隊長の勧めてくれる酒も食べ物もことごとく旨いが、茶に関してだけは理解に苦しむ。
 ことさらに面倒くさそうな手つきをしながら香辛料の粉をゴシゴシ洗い落として茶器を片付け、余っているお茶受けを勝手につまみ食いして、竜眼りゅうがんあんずの皮と種を捨てて証拠隠滅が完了したところで隊長が戻って来た。
「ひゃっひゃっひゃっ。やったぞ兄弟!」
うわ、上機嫌だ。絶対何かろくでもないことを言い出すに違いない……。



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