三十九、投壺と琴の宴(2)

 夜中まで楽しく飲んで、みんなで寝るともなくゴロゴロと転がっている時に、隊長が一人でトボトボと帰って来るのが見えた。三時さんときほど別行動をしていただけなのに、そういえばこんな奴もいたんだっけ、と軽い驚きを覚える。隊長がいないところで思う存分羽を伸ばしたことの証だろう。ああ面倒くせえ。なんでトボトボしてるんだ。見なかったことにして寝ちまいたいが、なんか手伝うことがあるかもしれないから面倒くさいが起きて声をかけることにする。
「ギャハハハ、酔っ払い!」
こちらから声をかける暇もなく俺を指さしてゲラゲラと笑い始めた。
「隊長こそ酔ってないんですか?」
「酔ってる。いい気持ちだ。」
「さっきトボトボ歩いてたじゃないですか。」
「戦闘詳報を書く時のことを考えてたら気が重かった。」
「演習で戦闘詳報なんて書くんですか?」
「いや。」
「じゃ、なんなんですか?」
「俺が戦闘詳報のことを考えながらトボトボ歩いてたなんてことは誰にもしゃべっちゃだめだぜ。」
「え~、誰にも知られたくないことだったら口に出さなければいいじゃないですか。」
「黙ってると健康によくないからさ。ぐち。」
こう言いながら左手の人差し指と中指でトントンと俺の胸を叩いた。
「エエ~、それ勤務兵の手当に含まれてるんですかあ?」
「季寧もどっかにぐち作っとけよ。叔遜でもとっ捕まえてせいぜい愚痴っとけば? 隊長のやつ、聞きもしねえことを勝手にぺらぺらとくっちゃべったあげく誰にも内緒だぞなんて口止めしやがるから迷惑千万だ、ってよ。」
ふうん。自分がぺらぺらしゃべることによって俺に迷惑がかかるっていうことを、しっかり理解しているんだな。それにもかかわらずしゃべるわけか。迷惑かけるって思いつつも甘えちゃう。他に甘える奴いねえのかよ。
 水瓶の傍まで歩いて行き、共用の湯呑を二つ取って水を注いで一杯を俺にくれた。水面に明月が映っている。
「ああ、そういえば満月ですねえ。」
なに言ってるんだ、俺。酔っ払いだ。
「そうだな。」
上品な手つきで水を飲んでいる。庶民の動作とどう違うんだろう。ひじの角度かな? 俺は軍刀術の型を覚える時のような真摯さで隊長の肘の角度をまねてみる。なにやってるんだ、俺。酔っ払いだ。

※戦闘詳報…戦闘終了後に書く、戦闘の経過や戦果のレポート



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