四、反則・非道・非常識(1)

 翌日の隊長は、ごく常識的な指揮官であるかのように見えた。変な時間に料理に興じたりもせず、訓練内容も到って普通だった。軽い走り込み、隊列移動の練習、軍刀術の型。上手だぞと褒めもせず、下手クソと叱りもしなかった。軍刀術の「突き」の動作に到るまでは。

 軍刀術の型の練習は、一連の型を決められた順に次々とやっていくものだ。脳天を割ったりももをブッ刺したりと、恐ろしげな動作が延々と続く。不満げに黙然と見守っていた隊長が、喉元への突きの動作のところでとうとう口を開いた。
とまれ!」
なんだよ。こっちは普通にやってんだよ。
「ちょっと、今のやり直して。ハイ。……はい止まって! 動くなよ。微動だにするんじゃねえぞ。」
突きの体勢のまま止まってるのキツいんですけど。隊長は構わずみんなの間をつかつかと歩きまわり不満げに眺めまわす。一人の横で止まり、声をかける。
「これよお、いま何やったとこだ?」
「敵の喉を突いたとこです。」
「うん。で、お前は今このつぶらな瞳で敵兵の苦悶の表情をガン見してるな? おお怖え。」
「はあ。」
「ぶっ裂けた頸動脈けいどうみゃくから呪いの血しぶきがお前の顔面に降り注ぐ。視界を奪われたお前は次の敵兵にやられて死亡。ご愁傷様、サヨウナラ。」
次々と隊員の顔の向きを確認しながら、一人一人に
「死亡、死亡。」
と声をかけながら歩く。
「なんでえこの列全滅か。俺は悲しいぜ。」
なんて嫌味な言い方だ。自分で突きをやって見せながら説教をたれる。
「顔の向きはこうだぜ。なってねえなあ。型だと思ってナメてんじゃねえよ。ちゃんと一個一個の動きの意味を理解しながらやるんだぜ。間違った格好のまんま体が覚えちまったら本番で死ぬぞ。じゃあ型、一からぜんぶやってみな。一個一個直してやる。」
面倒くさっ。一番目の「構え」の型から、さっそく茶々が入る。
「はいひたいに矢が直撃、死亡。」
動作をするたびにいちいちイヤなことを言う。
「はいひじ負傷、離脱。」
「脇から大量出血、ご愁傷様。」
「手首ぶっちぎれた、戦闘不能。」
聞いてるだけで気分が悪くなる。俺達は精鋭ではあるが、そんな血みどろの戦場に延々と留まっていたことなんかないんだ。普通そうだろう。斬り合いをやっている時間なんてわずかなものだ。できる指揮官は血で血を洗うような格闘を長時間強いたりしないものなのだ。



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