四、反則・非道・非常識(2)

 正午前から型の確認を始め、夕方に到るまで延々と練習を続ける。精神的にキツい。頭が朦朧となってくる。もう何十回型をさらっただろう。隊長の茶々もいちいち耳に入らなくなった。と思っていたら、いつのまにか隊長は何も言わずに黙って見ている。手を抜きはじめたのだろうか。いぶかっているさなか、隊長は突然ニッコリと笑った。
「はい、終了。よくできました。完璧。さすがだね。」
あっけにとられている俺達に隊長は一人満足げに拍手をおくった。
「スッゲエなあ、やるじゃん。覚えがはやいよ。デキる奴ら。」
大絶賛じゃないか。なんなんだよ。
「いっぺんに言われても普通なかなか覚えられるもんじゃないぜ。諸君は人並み外れて優秀なんだな。」
褒めすぎだろう。
「はい、お疲れ様でした。最後にスカッと散兵戦やって終わりにしよう。」
「やったあ!」
刀盾とうじゅん隊の訓練における散兵戦というのは、盾と棒きれを持って好き勝手にチャンバラをして遊ぶものだ。これは訓練の中ではかなり楽しい部類だ。
 みんなが棒に持ち替えたところで、「始め」の号令が出る。勝手にワアきゃあ言って遊ぶ。と、一人の隊員が
「隊長はやらないんですか?」
と声をかけた。こいつは周子儀しゅうしぎといって、我が部曲ぶきょくで一番の軍刀術の名手だ。
「えっ、俺?」
「ぜひお手合わせ願いたいんですけど。」
「はあ。いいよ。言っとくけど俺弱いぜ。お手柔らかに。」
みんな面白がって子儀と隊長を取り囲む。隊長が叩きのめされるところを見たいのはみんな同じらしい。
「構えないんですか?」
隊長は盾と棒を地面に突いて楽な姿勢で立っている。
「俺ギリギリまでこうしてるんだ。持ち上げると重いじゃん? 体力温存。」
「そんな長丁場にするんですか?」
「んーなわけあるかよ、かったりい。さっさと終わらせようぜ。」
「言ってること支離滅裂じゃないですか?」
「おれ支離滅裂な人なんだ。さ、どうぞ。始めて。」
始めて、と言われても構えてもない人に打ちかかるきっかけがつかみづらいらしく、子儀は瞬時ためらってから動き始めた。と見るや隊長は地面に突いていた棒を振り上げ砂を立て、まさかの目くらまし、とみるまに盾を凶器に子儀を滅多打ち、ひげを掴んで半ば引き倒しながらの禁断の金的攻撃、またたく間に子儀を沙場さじょうに沈めた。子儀は息も絶え絶えに
「人でなし!」
と悲鳴をあげる。戦友たちの囂々ごうごうたる非難の声。
「反則じゃないか!」
「汚ねえぞ!」
隊長は意に介さず高笑い。
「ひゃっひゃっひゃっ。いざ尋常に勝負ってかい。武道教室じゃあんめえし、倒しゃあ何でもいいんじゃねえのか。」



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