四、反則・非道・非常識(4)

 俺は四、五回かかっていったのだが、ことごとく撃退された。何がどうなっているのか分からない。確かなのは、隊長が刀に見立てた棒きれを一切使わず、刀兵の常識に全くかからない暴れ方をしていることだ。半日かけてさんざん軍刀術の型を教え込んでおきながら、軍刀術を小馬鹿にしているのだろうか。俺はたまらず、隊長が最初に「俺弱いぜ」と言っていたことを詰る。
「弱いって言ってたの嘘なんですか!」
「嘘じゃねえよ。俺ほんとに弱いんだ、精神的に。挑発されると嬉しくなってすぐ暴れちゃう。」
詭弁きべんじゃないですか! 弱いって言って油断させといて倒しましたよね。」
「戦争に禁じ手はないじゃん?」
「これ戦争じゃないですよ、訓練ですよ!」
「言っとくけど俺の訓練は実戦よりヤバいぜ。まんざら命がかからねえってわけでもねえかんな。覚悟しな。」
覚悟するのはてめえだ韓英! くたばれ! 懲りずに隊長を殺しにかかる。完全に本気だ。
 実戦の時は、互いに抜き身を持っているから、ただ必死なだけだ。一歩間違えば死ぬと思うから、相手がどうとか考えるゆとりはない。しかし今は、互いに鈍器しか持っていないから、生命の危険を度外視して、剥き出しの闘争心に満たされている。俺を、俺の愛する戦友達を、小馬鹿にし、痛めつけ、誇りをズタズタに踏みにじり、さも愉快そうに笑っている非道な男。俺は身体中がヤツに対する憎しみで一杯だ。なにがなんでも息の根を止めてやる。たとえ天が裂け地が砕けても、貴様だけは決して許さん!

 小半時もやっていただろうか。隊長はゼエゼエと肩で息をついている。もう一息だ。俺達を小馬鹿にした罰だ。人海戦術でひねり潰してくれる。どうやって叩きのめそうかと考えている時に、無情にも訓練終了のとりの刻を告げる太鼓の音が聞こえてきた。隊長はつまらなさそうに
「はい、時間切れ。やめ。」
と言う。ここまで追い詰めておきながら、あと一息のところで逃がすのか。俺達は咄嗟とっさに諦めきれず、棒を構えたまま隊長ににじり寄った。するとその時、何だか分からない世にも恐ろしい衝撃波が、雷鳴のように俺達の動きを封じた。
「やめと言ったらやめやがれ!」
……なんだこれ。人間の言語か? おおおお~、怖えええ~! 俺、魂魄こんぱく吹っ飛んだんじゃなかろうか? 心臓バクバクいっている。
 俺達はそれまで隊長がマジ切れしたところを見たことがなかったんだ。たまに不満顔でネチネチと説教をする以外は、いつもニヤニヤと笑っているばかりだったから、すっかりナメきっていた。震え上がっている俺達に、隊長は見慣れた不満顔に戻って一言
「けじめのない態度は嫌いだぜ。」
と言うと、ニコッと笑って
「面白かったな。またやろう。」
と言った。怒ったり笑ったり、めまぐるしい。
 面白かっただろうか。うん、面白いと言われれば、面白かった。俺は服についた砂を払いながら、次こそは必ず仕留めてやると固く心に誓った。



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