四十、地の果て(6)

「こちょばゆい?」
聞き返しながら素早く伯瑤の足先の湿気を拭き取り状態を確認すると、モゾモゾと下半身の衣類を緩めてももの間に伯瑤の足を挟んだ。
「見た目、しもやけっぽいけどな。」
「人肌ってこんなもんでしょうか。」
「どれ。」
言いながらそでまくり、持って来られたおけの中にひじを差し入れる。
「うん。でさ、すぐ冷めちゃうから煮えたぎった湯も持って来て。差し湯して適温を保つ。」
言いながらモゾモゾと伯瑤の足を股の間から取り出してぬるま湯に浸けた。うちの部隊にはちゃんと隊付きの軍医がいるのだが、荊州けいしゅう出身のお医者さんだから凍傷なんか見たことがあるはずもなく、これに関しては冬山登山経験者の隊長が主導権を握るようだ。いざ切断というときには軍医の仕事になるだろうが、今のところは隊長のやることを横で見ているだけだ。
「ちょっと動かしてみ。うんうん、全部ちゃんと動くじゃん。なんか色変わったり水膨みずぶくれできちゃったりしないかしばらく様子見よう。」
さっそく差し湯をしながら訊ねる。
「念のためにもう片っぽの足も見せてみろよ。」
「なんともないと思いますけど……。」
「どれどれ。ふうん、こっちもしもやけっぽいな。せっかく脱いだからこっちの足も入れとけば? かたっぽだけ暖まってると変にクシャミでちゃったりすんじゃん?」
「じゃすみません、遠慮なく。」
「ギャハハハ。この状態で酈食其れきいきに面会したら先生怒っちまうな。」
「それ誰ですか?」
「えっ、知らねえの? 民は食を以て天と為すって言った人だぜ。初めて高祖こうそ皇帝に面会した時に、高祖がナメて召使いに足を洗わせながら引見したから、年長者に対する態度じゃねえっつって先生怒っちまったわけ。」
「すみません。」
「なんで伯瑤が謝んの?」
再び差し湯をしながら桶の中を覗き込む。
「特に変化ねえな。痛くはない?」
「はい。痒いだけです。」
「これ触ってんの分かる?」
「はい。」
「じゃ大丈夫そうだぜ。」
にっこりと笑う。優しい。まぬけな奴にばっかり優しいぜ。



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