六、貊炙(ばくせき) (1)

 次の朝、俺達が起きた時には、隊長は楽しげに鍋を振って何かを焼いていた。無遠慮に覗きこむ。鶏肉をパリッと焼いたものに餡をからめている。見ただけで旨そうだ。点呼他、朝のもろもろの日課を終え、隊長のところに馳せ戻る。
「二日連続で肉なんて豪勢ですね。」
「きのう久々に鶏肉食ったら旨かったからウズウズしちゃって鶏肉に手を出してみた。」
「また十二、三人分ってとこですね。」
「そんなもんだろ。」
「ひょっとして毎回どこかの什を招待しようと思ってこの量作ってます?」
「いや、なんも考えてない。俺このあいだまで什長だったから、この量を作り慣れてるんだ。」
隊長はここの隊長になる前はただの什長だった。これは我が軍の七不思議の一つとして数えてもいいくらい不思議なことだと思う。什長から部曲督ぶきょくとくになるなんて通常ありえないという観点からしても不思議だし、逆に考えて、韓英という人がなぜ什長という低い地位のままき使われていたのかという観点からしても不思議だ。
 什長というのは、自分の兵隊十人の面倒を見てればいいだけの身体を使うお仕事なんだ。しかし韓什長は何故だか何かの集計をやったり、軍令ぐんれいの改訂作業にあたったり、何かと事務仕事をやっていた。その傍らで汚物処理の新方式を考案したり、軍用食の開発に携わったり、何屋なんだか分からない作業に従事していた。そんなに色々できるならした役人として取り立ててやってもよさそうなものなのに、なぜだかずっと什長のままだったんだ。一説によれば、とっくに責任のある役職に就かせてしかるべきだったのを、下士官のまま使う方が小回りが利いてあまりにも便利すぎたために任官が十年遅れたという。十年は言いすぎだろうと思うが。ちなみに、十年前のかん異度いど張車騎ちょうしゃきの親衛隊員で、気が荒いことで有名な張車騎親衛隊の中でもちょっと有名なくらいの暴れん坊だったという。
 今はきっとかなり丸くなったのだろう。隊長の料理をもらう気満々で取り囲む俺達にたじろいでいる。
「いつもこの量作ってくれるんだったら、什どうしで順番決めていただきに来るようにしますよ。」
「え、順番まで決めてあてにされてるって思うと、趣味が趣味じゃなくなっちゃうんだけど。気まぐれに楽しんで作りたいじゃん?」
「まあそこは気まぐれに楽しんで頂くとして、こっちでは勝手に順番決めて待ってます。」
「エエ~……。まあいいけどよ。べつに俺君らの期待通りに動かないからな。これ趣味だから。」
「どうぞ自由になさってて下さい。勝手に匂い嗅ぎつけて分け前もらいに来ます。」
「ヘイ。了解。すげえなお前ら……。」
釈然としない表情ながらも、諦めたようだった。



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