六、貊炙(ばくせき) (2)

 俺は順番など関係なしに、当然の権利としていただく。鶏肉は骨がついたまま無造作に焼いてある。無造作にガブリといく。――口に広がる心地よい甘酸っぱさの第一波、続いてさっくりとした食感、溢れる肉汁、似顔絵だけ見てたら会ってびっくりの王昭君おうしょうくんだ。無造作に見せかけて、ぜったいこだわりつくして作っているでしょう。韓英の野郎、憎い奴め。
 と思っていたら、憎い奴は地味にせっせと食べカスを掃除していた。骨付き肉などを食べる場合、骨のような食べカスは地面に落とすのが庶民のごく一般的な作法だ。誰もそんなことを気にかけていなかっただけに、隊長のこの行動は異彩を放った。
「あ、自分やります。」
「いいよ。これ趣味の後始末だから。」
「あのお、勤務兵ってなんのためにいるか知ってますか? 将校の威厳を保つためにいるんですよ? お偉い方がせっせと雑用にいそしんでたら見るからにガッカリじゃないですか。」
「ああなるほど。すみません、じゃお願いします。」
「っていうか食った奴自分で片付けろって話ですよね。」
「俺が散らかるようなものを持ちこんだのがいけなかったな。しかし――」
隊長はにわかに恐ろしい顔をした。
「もしおおやけの場でこんな態度をとりやがったら、ただじゃおかねえ。」
……怖え。

 この日から半月ほどの間、坂道やぬかるみなどの悪路での歩き方を練習した。明月峡めいげつきょうからの帰りに坂道を歩くのが下手だったからだろう。その時は「やればできるじゃん」と褒めてくれたが、やはり不満足だったのだろう。「気を付ければちゃんとできるのは分かったけど、なんも考えないでも体が勝手に動くようにしときたいな」と言っていた。
 この他に、隊列移動の練習にも本腰を入れ始めた。どんなにめまぐるしく号令が出ても素早く行動できるように。旗の色の組み合わせで動き方を指定されるのだが、「えっとこれはなんだっけ」と考えないでも動けるように、丸暗記するまでやるらしい。発狂しそうだ。しかしまあ、やれと言われれば、やりますけど。それは本来、丸暗記しておくのが正解だろうと思う。俺達は我が軍の全体的な水準と比べればかなり精鋭のほうだが、やっぱり甘かったんだろう。



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