六、貊炙(ばくせき) (4)

 翌朝、俺は隊長に「点呼はどうした」と言わせる隙を与えずバリっと朝の日課を終えてから、隊長のところへ行った。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
「あ、こっちがなんの失策もしてないのに隊長口を開きましたね。罰金十銭。」
「何イ? 人から挨拶されて返事もしねえってのは人としてダメじゃねえか。おまえ減点一だ。」
「開始時点での持ち点いくつなんですか? 点を全て失ったら戦死?」
「ま、勝手に決まり作って遊んどけよ。俺の罰金計算しときな。たんと貯まったらみんなのお小遣い。」
「じゃ、せいぜいいっぱいしゃべって下さい。」
「おれ意地っぱりだから目いっぱい我慢してやるぜ。罰金一回百銭に増やせ。」
「太っ腹ですね。」
「太っ腹じゃねえよ。自信過剰なんだ。いっつもできもしねえことをできるって言っちまって後からアップアップする。」
「危険な性格ですね……。」
 これは面白い話を聞いた。さっそく王什長に報告する。と、王什長も面白がって、陳屯長に話をしに行った。するとなぜか陳屯長は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「罰金が一回百銭? あの人、無理だろう……。」
横で黄屯長が大爆笑する。
「あのおしゃべりな男が、無理無理! ぜったい無理! 黙ってたら呼吸止まっちまうんじゃねえの?」
ゲラゲラと笑う。
「悪ふざけにもほどがあるよ。」
陳屯長は深刻顔だ。
「罰金とるなら上限を設けるとかなんとかしないと、破産するぜ。」
え~、いいじゃん、放っときましょうよ。あいつ、身から出た錆じゃないですか。しかし陳屯長はみんなに人道的観点から説得をして、遊びをつまらなくしてしまった。真面目すぎる。つまんないス。
 不承不承、隊長に取り決めを説明する。
「兵一人当たりの持ち点は三点、罰金の上限は二千銭だそうです。」
「へえ……。」
隊長もつまらなさそうだ。なにせガキだからな。
「それ誰が考えたんだ?」
「陳屯長です。」
「ふうん。衆人しゅうじんみないてわれひとむってかい。」
「は? なんですかそれ。」
「漁父だよ。」
「いや、出典じゃなくて。」
「みんなが悪ノリしてる時に一人だけ正気な奴がいるってこと。」
「はあ。なるほど。」
とにかく二千銭めいっぱいふんだくってやろう。



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