七、巨獣と競う(2)

 隊長はウキウキと俺たちに説明を始めた。
「前に実働演習やろうって約束したもんな。今日できるぜ。俺らが呑気に行軍してるところに敵の騎兵が襲撃してきて俺らをズタズタにしちまうって想定だ。しかし実際には俺らが相手をズタズタにする。なんて言ったら、李さん怒っちまうかな? ひゃっひゃっひゃっ。どっちかが降参したら終了です。」
ええ~、騎兵の襲撃受けるんすかあ? 馬にドカドカ踏んづけられるの怖いんだけど。
「事故のないように気を付けてやろう。落馬した奴をボコボコにしてもいいけど、馬は決して傷めるなよ。」
なんだと?
「馬をやっちゃいけないんだったら、こっちは勝てる要素ないじゃないですか。」
「負けなきゃいいんだ。お馬ちゃんがバテるまで持ちこたえれば、向こうから勝手に降参してくるぜ。」
「はああ? 馬なんて、人間の体重の何倍もある生き物ですよ? 名馬は一日に千里走るとかいうじゃないですか。そんなもんと体力勝負なんて!」
「体重軽いほうが消耗しないんじゃねえ? それに、人間だって一昼夜で六百里くらいは走れる。」
「え……まさか、隊長それやったことあるんですか?」
「あるよ。」
「六百里って、このあいだ三泊四日で踏破した距離ですよね。」
「荷物なしで軽装で道がよければ一昼夜で着くんだよ。故障しなけりゃね。」
「それ、まさかいずれ我々にもやらそうと思ってます?」
「いや……なにもそこまでやんなくてもいいんじゃねえかな。もし実戦でどうしても必要だってことになればやるかもしんねえけど。ぶっつけ本番でも諸君なら七割くらいは一昼夜で着くだろう。」
「残りの三割は?」
「行き倒れ。オエ、気分悪。ちなみに無事到着した七割もすぐにはなんにもできないだろうな。そこで敵と交戦することになれば全滅かもよ。おお怖え。」
「そんなもん実戦で役立つ時あるんですか? そんなに急ぐならふつう騎兵が行きますよね。」
「道によっては走ったほうが早い。到着した時に使い物にならない状態であっても、どっかの拠点に先に着いたもん勝ちみたいなことって稀にあるだろ? 現地に我が軍の旗が翻ってるのを見ただけで敵さんが戦意喪失、みたいな。狙いが外れたら地獄だけどな。ギャハハハ。」
「なんで笑いながらそんな恐ろしい話をするんですか?」
「軍事って可笑しいよなあ。これ人体実験なのかよ、っていうくらい人体の限界までやらせるじゃん? そんなこと、平和な街中で科学的な目的で行う実験だったら人道的な観点から絶対できねえぜ。戦争ってものが命のやりとりだからできることなんだろうな。ひゃっひゃっひゃっ、だから戦争なんかやっちゃダメなんだよ。人間が人間じゃなくなっちまう。」



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