七、巨獣と競う(5)

 隊長の馬は無神経でのんびり屋なのだが、いかんせん年が若いので、時々興奮してぴょこぴょこやっている。そんな馬に乗りながらよくもまあ落馬もせずに両手を使って闘うものだ。隊長は徴兵以来ずっと歩兵だったはずだが、なぜ馬術が達者なのか分からない。親衛隊員は歩兵でも馬術を習うのだろうか。いや、大人になってから習得した感じじゃないな。たぶんもとはどこかいいところのぼんぼんで、小さい頃から騎射撃剣きしゃげっけん琴棋書画きんきしょがをみっちり仕込まれて育ったのだろう。北方出身の戦争孤児で食いつめて営門えいもんに転がり込んだような兵士にはそういう出自の人が意外に多い。もっとも、隊長は志願ではなく徴兵だが。
 徴兵からの叩き上げというところが、下々の間での韓隊長の人気の大きな要因だ。しかし、この人は、無学で粗野な兵卒がよくも武官の端くれまで昇ったものだ、というわけではなくて、逆に、読書人階級のぼんぼんがよくも粗野な兵卒の振る舞いを身に付けたものだ、というほうが実態なんだろう。やっぱり雲の上の人なのだろうか。いや、まさか。近寄る相手をさも楽しげにぶちのめしている姿はどう見てもただの悪ノリしたガキだ。
「隊長~、手、大丈夫ですかぁ~?」
「折れたかも。なーんてウッソー。箸が持てなくなったら季寧に晩飯食わせてもらおう。」
「うわ面倒くさっ。怪我しないで下さいよ~。」
「了解。」
了解しさえすれば怪我しないのかよ。気軽に請け合いやがって変な奴。
 一時半ほど経っただろうか。俺達はまだまだ疲れていない。汗が心地よいくらいだ。突撃の道すがら、李隊長が韓隊長についと近付いて来た。
「休憩しない?」
「降参ですか?」
「まさか。」
笑いながら疾風のように馳せ去った。
 俺達は何も考えずにひたすら令旗に従って動く。隊長は楽しげにボカスカやっている。二、三回の突撃を経て、また李隊長が近付いてきた。
「休憩しないの? 人でなしだねえ。そっか、キミ僵屍キョンシーだっけ。」
「せっかく接近して下さってるんで、この機に仕留めちゃっていいですか?」
「アハハハ、どうやって?」
李隊長が棒を構えた。
とうですよ。」
こう言って韓隊長は石弾をポカスカと投げつける。俺達はすかさず
「命中!」
「死亡!」
と叫ぶ。が、李隊長は
「鉄鎧だもーん。貫通しないもーん。」
と言って逃げて行く。このやりとりの最中にも韓隊長は次から次へと旗を振っている。器用な人だ。



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