八、拉麺をめぐる攻防(1)

 二日後の朝、隊長は何事もなかったように楽しげに鍋を振っている。今日はキノコと青菜だ。こういう食材をいつどこから入手してくるのか不思議だ。夜明け前にこっそり外出して朝市にでも行ってるのだろうか。日の出前は城門が閉まっているが、平時なら城外にも市がたつから買い物は可能だ。にしきまとうご身分のくせにそんなところでちまちま買い物をしているとしたら、おかしな野郎だ。
 旨そうに出来上がったほかほかのモオ青菜チンツァイを皿に移しながら、おかしな野郎はちまちましたことを心配していた。
「なんか、順番決めて分け前もらいに来るっつってたけどよお、内容に当たり外れがあるんじゃねえか? 豪勢に牛肉とか海老とか食える奴もいれば、今日みたいになんでもねえ腹の足しにもならねえ野菜だけって奴もいるんだぜ? そんなんでいいの?」
すると、軍隊経験十五年の長老、はんちゅうけいが静かにこう言った。
「豪華な食材なら、金に糸目をつけなければ食えます。でも、食べ物をおいしく調理してくれる料理人に出会えるかどうかは運ですよ。どんな質素なものでも、腕のある人の作るものは必ずおいしい。」
「その期待重いんだけど。おれ料理人でもなんでもないからね。ただの料理好きのオッサンだからな。」
ってゆうか軍人でしょ?
 青菜もキノコもつやつやと照り輝いている。あくまでも青々と且つ透き通った青菜はあたかも翡翠ひすいのようだ。シャキッと歯を立てるとたちまち玉のうてなに誘われる。香り高い調味油は蠱惑的こわくてきな琵琶の調べ、つるりとなめらかなキノコの肌が口の中を躍る。これがなんでもねえ腹の足しにもならねえ野菜かよ。韓英の野郎、つくづく憎い奴だ。
 張屯長ちょうとんちょうが、舌鼓をうつ俺達を怨めしげに眺めながら隊長ににじり寄った。
「隊長、お気付きでしょうか。」
「え、何を?」
「毎回、什単位で順番を回していってますとね、我々がありつく機会がないわけです。」
「なるほど。」
「一回、屯長だけにふるまってみませんか。」
「手料理を? え~? アハハハ。皆さん興味あるんですか、小生の手料理に。」
「もちろんです。」
「ふうん……分かった。しっかし、絵面えづら的に笑っちまうな。屯長のみなさんが雁首をそろえて、隊長の料理に舌鼓。ギャハハハ。」
「笑うことはないでしょう。我々真面目に言ってるんだ。」
「怒ることはないでしょう。なに食べたい?」
「得意料理はなんですか?」
拉麺ラーメン。牛肉拉麺ね。」
「すごいですね。拉麺作れるんですか。」
「すごいって、何が? 趣味へののめり込み方が? ギャハハハ。拉麺大好き。作るのも食うのもな。」
「では次回はぜひ拉麺を。」
「ここでそれやってると目立っちゃうから、外でやろう。野外演習やろうぜ。いや待て、演習中に隊長と屯長が雁首そろえて拉麺? そりゃ怠けすぎだな。ギャハハハ。」
「じゃ紅白戦やりましょうよ。甲班が油断して拉麺食べてる間に乙班が奇襲。」
「それ面白えな。乙班が勝ったら戦利品が拉麺? ギャハハハ、面白れ~! やろうやろう。ぜひやろう。」



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