八、拉麺をめぐる攻防(2)

 思い立ったが吉日だ。さっそく演習に出かける。将軍も我々も、隊長の突然思いついて即実行という行動様式に慣らされてしまっている。甲班の大将は陳屯長、乙班の大将は黄屯長。隊長は今回は指揮をとらず麺打ちに専念する。じゃなかった、部下たちの働きぶりを評価する。のかな。
 陳屯長は木立を目隠しにして堅陣を組みつつ、さっそく隊長に麺作りを開始させる。
「ヘイ毎度。」
職人っぽく返事をしてせっせと小麦粉を捏ねる隊長。どう見ても軍人じゃなく麺打ち職人だ。捏ねおわった生地を寝かせ、その間に汁のしたくにとりかかる。
「司令殿、火を焚いちゃっていいのかな?」
「はい、結構です。可及的速やかに拉麺を完成させて下さい。」
「了解。」
思い切りグツグツとやりはじめる。木立があっても、煙で我々の現在位置を発見されてしまうだろう。拉麺を食い終わるまでうまく敵を防がなければならない。
いぬいの方向に敵影確認、距離二百五十歩!」
陳屯長は慌てない。木立の中に伏兵を置いてあるんだ。隊長の麺づくりは佳境に入ったところだ。生地をくるくるとねじって引っ張る。半分に折り、またねじって引っ張る。素早くねじっては引っ張り、ねじっては引っ張り。くり返すうちに糸のように細くなる。真摯な眼差し、あざやかな手つき。凛としたたたずまいは神々しいまでの威厳を湛える。こいつ何者なにモンだ。伏兵が敵と交戦を開始する。あとは茹でるだけだ。さあ隊長、さっさと仕上げて下さい。
「ギャハハハ、ダッセ~!」
は? 何が? おっと、これか! 敵の本隊が目の前に現れた。クソッ、乾の方向二百五十歩は陽動隊だ!
「さあ、茹でますぜ。」
隊長は我関せずで悠然と麺を茹で始める。茹であがったらのびる前に食わなきゃならないが、誰のものになるだろうか。勝手に略奪して食っちまいたい。
 陳屯長は隊列を移動させ、敵を挟撃する。黄屯長は
「どけ、ガキども!」
恫喝どうかつするが、普段は怖い黄屯長も、演習となれば別だ。この機にぶちのめしてやろう。
「殺せ! ブッ殺せ! 黄礼を殺せ!」
我々は殺せ殺せと大合唱しながら敵兵を棒でぶちのめす。するとまた隊長の笑い声が聞こえた。
「ギャハハハ、ダッセ~! 甲班の至宝、麺打ち職人がさらわれたぜ。」
見ると、敵の別働隊が拉麺づくりの器材もろとも隊長を連れ去っていくところだ。茹でたての麺を食いながら歩いてる奴もいる。畜生、俺の拉麺を!
「黄礼を殺せ!」
陳屯長が叫ぶ。司令官を殺ってから拉麺を奪還する作戦か。うん、この体勢ならそうするしかないすね。チャチャっと黄礼をぶち殺して拉麺取り戻そう。



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