八、拉麺をめぐる攻防(3)

 俺達が黄屯長の部隊と激闘をくりひろげている間に、遠くで煙が上がる。あそこで隊長は新たな麺を茹でているのか。もうじき黄礼の部隊を壊滅に追い込もうかという時になって、敵の援軍が我々の側面を衝く。ここに敵兵二百人くらいいるんじゃねえか? ってことは、拉麺職人のまわりはガラ空きだ! 我々は黄礼も援軍も放っておいて煙めざして突き進む。
「計略です! 煙の場所には火の始末をする係が二名いるだけです!」
斥候が叫んだ瞬間、敵の伏兵から奇襲を受ける。大混乱だ。丘の向こうに煙が上がる。黄屯長どこ行った? まさかあの煙の場所で拉麺ゆでてもらってさっさと食ってるんじゃあるまいな。クソッ!
 伏兵を撃退し、俺達は懲りずに新たな煙を目指し突き進む。今度は斥候を先刻より遠くまで出す。今度の煙は本物で、乙班の屯長達がうまそうに拉麺食ってるらしい。我々は正面と側面の二方向から攻めることにする。正面から突撃を始めて敵がそちらに気をとられたところで、側面からズドンだ。俺は側面から行く方になり、味方が交戦開始してわあわあ言ってるのを聞きながら、満を持して襲撃する。有無を言わさぬ猛攻で麺打ち職人を奪還すると、隊長はゲラゲラと笑った。
「ギャハハハ、根性ねえなあ。食えりゃそれで満足ってかい。」
俺達が残党を刈っている傍らで、陳屯長が麺打ち職人に依頼した。
「このまま麺を茹で続けて頂いてよろしいですか。」
そして俺は、耳を疑う言葉を聞いた。
「残念! 拉麺は売り切れです! 本日はこれにて閉店で~す。」
……負けた。惨敗だ。いかに敵を粉砕しても、麺打ち職人を確保しても、拉麺食えなかったら負けだ。ああ~、畜生~! 俺はがっくりとその場に崩れ折れて号泣した。隊長は思う存分拉麺を作れて満足したらしく、上機嫌で
「両軍ともよくやったなあ。」
と講評を垂れていたが、俺の耳には入らなかった。

 その後、隊長は什ごとに手料理を食べさせているのとは別に、時々屯長を個人的に呼んで何か食べさせるようになった。それまでもちょくちょく屯長を呼んでは一緒にお茶を飲んだりしていたのだが、お茶をやめて料理に変えたのだ。
「今日ちょっと来ねえ? なに食いたい?」
こう質問されると、甲班に所属していた屯長たちは必ずといっていいほど
「牛肉拉麺でお願いします。」
と答えたものだ。



《広告》
ページ公開日: 最終更新日: