九、立ち聞き(3)

「お茶入りました。よかったらどうぞ。」
「えー、なんか、飲み方とかあるの?」
「あ、すいません、略式で淹れました。お楽にどうぞ。甘いのお好きでしたね?」
「ウン。」
「サクサクとしっとり、どっちが好きですか?」
「しっとり。」
「じゃこれ、お茶うけに。」
「うわナニこれ。」
栗子酥リーツスーです。」
「ナニこの貴族のおやつみたいなの。」
「材料はとりたてて珍しいもの使ってないんですよ。作るのも簡単です。」
「これキミ作ったの?」
「はい。」
「結婚してくれ!」
「食べてから言ったらどうですか? 下手ヘタで激マズだったら取り返しつかないじゃないですか。」
「えっ、それって、もしこの味が気に入ったらオレと結婚してもいいってこと?」
「いえ。」
「うわフラれた!」
隊長は李隊長をシカトして涼しい顔でお茶を飲む。李隊長は栗子酥リーツスーをぱくりと食べ、しばらく無言でいる。
「……やっぱ結婚してくれ。」
「それよりお茶召し上がって下さい。」
「ああオレ泣いちゃう。このお菓子おいしすぎ。」
お茶を飲めという隊長の言葉を無視して、李隊長はもう一つお茶うけを食べる。変わった人だ。
「ところで、このあいだのあれさあ、キミ、うちの部隊が南中なんちゅう出身者で編成されてるの知っててわざとオレのところに挑んだの?」
「いいえ。南中の部隊だとは知っていましたけど、わざと狙ったわけじゃないですよ。」
「ほんとに? オレさあ、キミがわざと自分をおとりにして隊列を撹乱する作戦かと疑っちゃった。だって、彼ら怖いよねえ。本気でキミを殺しにかかってなかった? 隊列無視してどんどんそっちに行っちゃうんだもん。もうグッチャグチャ。参ったよ。あんまり勝手やるから誰か死刑にしてやろうかと思った。」
「南中では恨みを買っていますから。」
「そこまでとは知らなかったよ。なんか、キミが着任した時から彼らガタガタ言ってたんだけどさあ、まあそのうち馴染むかなと思って放っておいたんだ。」
「放っといて馴染むってことはないんじゃないですか? むしろ顔を見るたびに憎しみが増幅するんじゃないですかね。」
「でも安心してね。なんか、彼らこのあいだでもう納得したみたいだよ。一昼夜近くかけて執拗にキミを狙ったのにとうとう仕留められなかったからね。強い者には一定の敬意を払うらしい。」
「へえ、そういうものですか。」



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