九、立ち聞き(6)

 李蘭りらんの野郎、立ち聞きしたけりゃ自分でやればいいじゃないか。足が不自由なのにお使いなんて引き受けやがって。李隊長が部屋の前にたたずんでいたら明らかに不審だが、俺だったら誰にも怪しまれないから、俺が立ち聞きするほうが合理的ではあるが。部屋の前に戻り聞き耳を澄ますと、叔父さんが誰かの人物紹介をしているところだった。
「小動物系ですね。いつも季粛きしゅくにいじられてます。」
「へえ、そりゃ気の毒だ。」
「でも本人もそれがまんざらでもない様子ですよ。」
「ふうん、仲良くやってるんだ。」
「どうやら悪人ではないようなのでほっとしています。」
「よかったな。世の中、盗癖とか虚言癖とか、俺みたいにすぐ暴れる奴とか、いろんな欠陥を持った人間がいるからな。」
「什長が暴れてるとこ見たことないですよ。ああ、もう什長じゃないか。什長は俺か。」
へえ、隊長の什長時代の同僚じゃなくて、もと部下か。
「異度って呼んでくれよ。もう直属の上官じゃないからそれでいいだろ。」
「でも前より更に身分の差が開いてますよ。」
「身分? ギャハハハ。そう言や仲基ちゅうきのやつ勉強してる? あいつを将軍か大臣にさせて老後の面倒見させる予定じゃん?」
手擀麺ショウガンメンばっか作ってますよ。いいかげん食い飽きました。」
「へえ、あいかわらずやってるんだ。どう、上手になった?」
「ええまあ。お袋の味、ってくらいのできです。」
「ふうん。いいなあ。」
「ここでもあいかわらず料理してるんですか?」
「うん、やってる。へっへっへ、笑っちまうよ。いつも十人分くらいずつ作ってたらよお、ここの奴ら勝手に順番決めて什ごとに順々に分け前もらいに来るってよ。手際いいよなあ。あきれるぜ。」
「なんか、すごく楽しそうにやってますよね。よかったです。安心しました。」
「安心されちゃうと心配してくれる奴いなくなっちまうな。」
「なんか問題あるんですか?」
「いや、とりたてて問題ってこともないんだけどさ。」
「まさか物足りないとか? 力が余って退屈?」
「ギャハハハ、逆、逆。もう毎日発狂寸前だよ。おれ精神面弱いじゃん? べつにさあ、誰にいじめられてるわけでもないんだよ? 上官は理解あるし、同僚は親切だし、部下もよくやってくれるしさ。でもなんつーか、正直荷が重いよ。ギャハハハ、言っちゃった、愚痴。」
「そういうふうに感じるのも最初のうちだけなんじゃないですかね。」
「もう三ヶ月経つぜ。」



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