八十七、失敗作(1)

 俺は体に日課時限が刻み込まれた精鋭だ。通常、起床の太鼓が鳴る前に目を覚ますことはまずない。しかし今日は、何故だか早く目覚めてしまった。クソッ。  異常に損した気分で、隊長を探しに行く。きっとまた何かおいしいおめざでも作 …

続きを読む八十七、失敗作(1)

八十七、失敗作(2)

「知るかよ。火傷してねえ? 水で冷やしといたほうがいいぜ」 「手なんかどうでもいいですよ」 「どうでもいいわけあるかよ。馬鹿か」 「馬鹿に馬鹿って言われたくない。大丈夫ですか?」 「もう治まってきたぜ。ああ焦(あせ)った …

続きを読む八十七、失敗作(2)

八十七、失敗作(3)

「自由人のくせして時々変に自己流にお堅いから、本人が真面目なつもりでいるわりには周りにはちっとも伝わっていないという、こういうのを変人と呼ぶんだろうな」 「かなり正確に自己分析できてるんですね」 「自己分析できてても直す …

続きを読む八十七、失敗作(3)

八十七、失敗作(4)

「自分で言ったんじゃないですか」 「一回性ね……。おなじ食材をおなじ調理法でおなじ顔ぶれと食べたって、毎回同じ会食になるわけじゃないじゃん? 楽しい時は美味しく食べられるし、誰か機嫌が悪かったりすればまずくなっちゃうよな …

続きを読む八十七、失敗作(4)

八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(1)

 次の日だ。今日も朝から隊長は料理に興じている。料理鉢の中には何か白いネバネバとしたものが入っている。 「薄餅(バオピン)でも作るんですか?」 「いや。撥魚児(ファーイル)」 「なんですかそれ」 「剔尖(ティージエン)だ …

続きを読む八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(1)

八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(2)

分かりやすい反応だな。動揺しすぎ。気色(キショ)いんだけど。俺の前に剔尖(ティージエン)を貰っていた奴が興味を持った様子で聞いて来た。 「なに? 昨日おっしゃってたことって」 俺はついニヤニヤと笑ってしまった。 「いやあ …

続きを読む八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(2)

八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(3)

 隊長は洗い終わった鍋を重そうにぶらさげながら、トボトボと天幕の中に入り、寝台の上に乗ると頭から布団を被って横になった。 「えっ! 朝から?」 「体調不良」 「え、マジに具合悪いんですか? お医者さん呼びましょうか?」 …

続きを読む八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(3)

八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(4)

 ああ、面倒くさいなあ。こんなふうに寝込まれたら、俺のせいみたいじゃないか。面倒くさいが、黄屯長に報告に行く。 「黄屯長、隊長がウツで寝込みました」 「は?」 ほんと、「は?」だよな。俺もそう思う。 「今朝、趣味の料理を …

続きを読む八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(4)

八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(5)

「ええと、その話を暴露していいのかどうか分かりませんけど、とにかく昨日隊長がちょっと小っ恥ずかしいようなことを言っていたんで、今朝それをネタにしてみんなの前でからかったんです。そしたら隊長、急に怒ってふて寝しちゃったんで …

続きを読む八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(5)

八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(6)

 なんなんだ? そんなに重症なのか? 今朝までニコニコしてお料理していたくせに、おかしいぜ。常々隊長のことを危なっかしい人だと思っていたが、こうまで弱っちいとは知らなかった。命の恩人なのに悪いことをした。しかしそもそも俺 …

続きを読む八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(6)

八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(7)

 翌朝、起床の合図とともに飛び起きて天幕を飛び出すと、駆け込んで来た黄屯長と正面衝突して目の前に星が飛んだ。危ないよ! 鼻血が出ちゃったじゃないか。黄屯長は上唇を押さえてツーンとしたような半泣き顔で固まっている。 「おは …

続きを読む八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(7)

八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(8)

「あの、ご機嫌はいかがですか」 隊長は恥ずかしそうに笑った。 「もう治ったよ。っていうか、機嫌が悪かったんじゃなくて、体調が悪かったわけ」 「朝元気だったのに突然寝込むからびっくりしたんですけど」 「すみませんでした。実 …

続きを読む八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(8)

八十四、以食為天(食をもって天となす)(5)

「もしも政治家が軍隊の力を極限まで高めてその力に頼って政治を行おうとするなら、それは政治家が、自分は無能です、って言っちまってるのと同じだな。もしも将帥(しょうすい)が兵隊の力を極限まで高めてその力に頼って合戦を行おうと …

続きを読む八十四、以食為天(食をもって天となす)(5)