九十四、遺言(1)

 美味しく朝ごはんを食べてご機嫌で歩いていると、張主簿(ちょうしゅぼ)の下吏(かり)が書類を届けに来るところに出くわした。なぜか瞬時に表情を曇らせる隊長。言葉少なに書類を受け取り、その場で開いて一目見るなり舌打ちをする。 …

続きを読む九十四、遺言(1)

九十四、遺言(2)

「ごめんねえ、ここに入ってたお菓子、勝手に一つ残らず食べちゃった」 隊長は笑いながら訊ねる。 「おいしかったですか?」 「ウン、おいしすぎ。ちょっとつまみ食いして元通りしまっとこうと思ったんだけどさあ、止まんなくなっちゃ …

続きを読む九十四、遺言(2)

九十四、遺言(3)

「でもべつにこれ軍の機密とかじゃないでしょ? あっ、もしかして異度くんは最新の軍事技術を駆使して作りだされた偃師偶人(アンドロイド)だから中がどうなってるかは極秘ってこと?」 「勤務兵は自分が付いている将校にとって不利益 …

続きを読む九十四、遺言(3)

九十四、遺言(4)

「大事にしないといけませんね。今日、体調悪いところを押して来て下さったんですね。すみません。ありがとうございます」 「異度くんに会いたかったから来たんだよ」 「馬(ば)平北(へいほく)を襲撃するのはちょっと体調が落ち着い …

続きを読む九十四、遺言(4)

九十四、遺言(5)

「食べすぎた時に横になるとよけい具合悪くなりませんか? すこし胃が落ち着くまでは我慢して立つか座るかしといたほうがいいと思いますが」 「それよりお湯くれない? なるべく熱っついの。油っぽいもの食べすぎたのがスッキリするか …

続きを読む九十四、遺言(5)

演義の魏延が関羽に似ているなんて嘘!?英雄性をカットされた魏延

三国志演義で、スーパーヒーロー諸葛亮の言うことを聞かない迷惑男のようなキャラ付けをされ憎まれ役になっている魏延。 彼の容貌が三国志の神キャラ関羽に似ていることはご存知でしょうか。 私の手元にある岩波文庫の翻訳本(『完訳三 …

続きを読む演義の魏延が関羽に似ているなんて嘘!?英雄性をカットされた魏延

九十三、事件(1)

 翌日の午後、やはり雨になった。降りだしたと思ったらボトボトと音をたてて大粒の雨が落ちてきたので、これはマズいと思っている間に車軸を流すような豪雨になり、一時余りも降り続いた。床の上までビショビショだ。便所も溢れたかもし …

続きを読む九十三、事件(1)

九十三、事件(2)

 そばで不貞(ふて)腐(くさ)れた顔をして水を飲んでいる兵士に聞いてみる。 「韓隊長を見ませんでしたか?」 「見たよ。物好きな人だなあ。必要もないのにわざわざこんな腐(くさ)れ作戦に同行しやがって。ザマミロ」 険(けん) …

続きを読む九十三、事件(2)

九十三、事件(3)

「冷やしたりしたほうがいいんじゃないんですかね」 「とっぷりと冷えてるぜ」 ケラケラと笑う。 「火傷(やけど)の応急処置って、とりあえずよく冷やせって言うじゃん? 天の配剤(はいざい)だな。俺ら冷えすぎだろってくらい冷え …

続きを読む九十三、事件(3)

九十三、事件(4)

 隊長は程なく派手に包帯を巻きつけられた格好で慌ただしく帰って来た。全力疾走で来たと思ったら、定位置、今の場合は自分の部屋の前に着くなりピタッと立ち止まり、鷹揚(おうよう)に笑う。なんなんだ、その緩急の付け方。とりあえず …

続きを読む九十三、事件(4)

九十三、事件(5)

 やはり丞相は助命嘆願を受け容れて一死を免じ、馬平北の位官を剥奪したうえ四十杖の棒打ちに処した。馬平北がただの馬(ば)岱(たい)になったわけだ。ザマミロ。こんどタメぐちで話しかけてやろっかな。ぶっとばされそう。棒打ちは、 …

続きを読む九十三、事件(5)

九十三、事件(6)

「そうだったんですか?」 「当たり前じゃん、にぶい奴。部曲督って一番なり手がいないもん。慢性的な人不足。だからあなたのような人は金の卵なわけですよ」 「なりたい奴はいくらでもいるじゃないですか」 「わざわざなりたがるよう …

続きを読む九十三、事件(6)

九十三、事件(7)

「司馬懿(しばい)を殺すっていう話はどうするんですか?」 「実は丞相から引導を渡されちゃってさ。本件から下りろって。なんだろな、本件って。司馬懿殺害計画? ギャハハハハ」 「ここまで我々があれだけがんばってきたのに、どう …

続きを読む九十三、事件(7)

九十三、事件(8)

 黄屯長が退出した後も隊長は一人で優雅に二煎目を飲みながらコリコリとお菓子を食べている。 「季寧も甘いの好きだったらいいのになあ」 「べつに嫌いってわけじゃありませんよ」 「でも季寧が甘いの食ってるとこ見ると、どうもあん …

続きを読む九十三、事件(8)

九十三、事件(9)

 湿った床をせっせと拭く。指と膝が冷たい。さっきの馬(ば)平北(へいほく)……じゃなかった、位官剥奪されたから馬(ば)岱(たい)って呼んじまおっかな。おお怖。その人の公開裁判は、なんだかおかしかったな。事故なのに、原因究 …

続きを読む九十三、事件(9)

九十三、事件(10)

 翌日、朝の一連の日課を終えて隊長を探したが、どこにもいなかった。ほんとにどこにもいないんだ。部屋の中で事務処理をしているわけでもお茶を飲んでいるわけでもなく、外で料理に興じているわけでもなく、厩舎(きゅうしゃ)で馬と遊 …

続きを読む九十三、事件(10)

九十三、事件(11)

 数人で手分けをしておろおろと営内を探し回る。中にいるはずないだろう。イライラと歩きまわる。馬に乗ってでかけて、乗り捨てて失踪? いや、隊長は官品の扱いにうるさい人だから、失踪するつもりなら軍馬は使わず歩いて出るだろう。 …

続きを読む九十三、事件(11)

九十三、事件(12)

 ほんとに人騒がせな野郎だな。ムカムカ。トロットロの粟粥(あわがゆ)に、蕪(かぶ)の一夜漬け。ああ美味しい。最高だ。何をどうやって漬けたんだ? ほんとに蕪(かぶ)? 天上界に生えている蟠桃(ばんとう)を承露盤(しょうろば …

続きを読む九十三、事件(12)