九十五、整理(1)

 李隊長が悄然(しょうぜん)と佇(たたず)んでいる。ほとんどしなびて茶色くなった朝顔に色あせた小さな花がちらほらと咲いているのを眺めながらはらはらと涙を落としている。 「あのお、種たくさん獲れましたけど、よかったらお持ち …

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九十五、整理(2)

 クロに会いに行くことにする。厩舎(きゅうしゃ)に入ると、馬たちはちょうど飼葉(かいば)を与えられてゴリゴリと咀嚼(そしゃく)しているところだった。クロは飼葉桶(かいばおけ)に顔を突っ込んだまま迷惑そうな目で俺を見た。 …

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九十五、整理(3)

 早朝から営内のどこかしらに失踪していた隊長も、朝礼の時間にはちゃんと戻って来て極(ごく)当たり前に朝礼を行った。しゃべってる内容は普通なんだけど、みんなここのところ隊長の機嫌がすこぶる悪いことは知っているから心もとない …

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九十五、整理(4)

「はい。じゃそういうことでお願いします」 「どうして書類を見てると不機嫌になるのかな~というのが素朴な疑問だったんですけど」 「だってムカツクもん。下らない書類ばっかでさ。一体なんのためにこんなことやってるんだって思っち …

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九十五、整理(5)

 次の日だ。まだ朝顔が咲いている。今咲いている花は、ちゃんと種を実らせるのだろうか。葉も茎もあらかた萎(しな)びてしまっている。もう何日かすれば霜が降りるようになるかもしれない。  しかし秋の朝顔というのはずいぶん呑気な …

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九十五、整理(6)

「よかったらお揉みしましょうか」 「いやいや。なんか便利な肩もみ用具が作れないかなあと思ってさ。こう、前でやった手の動作を上手(うま)~く後ろに伝えるような器具が作れればいいんだけどなあ」 こう言いながらさっそく立ち上が …

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九十四、遺言(6)

 のんびり観察している場合ではない。周りにいる連中が騒ぎを聞きつけ駆け寄ってくる。魏(ぎ)延(えん)、馬(ば)岱(たい)、李(り)蘭(らん)だけの中でやってるぶんには事を穏便に済ませる方法もあるだろうが、大勢集まってきて …

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九十四、遺言(7)

 隊長の部屋に到る。隊長は扉の傍にかがみこんでちまちまと蝶番(ちょうつがい)を付け直しているところだった。 「なんでそんなちまちました作業を自分でやってるんですか?」 「自分で壊したからな。っていうか実際に破ったのは将軍 …

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九十四、遺言(8)

「一回頭打っちゃったら、回復するまでしっかり様子を見ないと危ない。痛んだところに重ねて損傷を加えると大変なことになるからな。大事にして下さい。最初なんともなくても後になってからおかしくなるってこともあるから、ちょっとでも …

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九十四、遺言(9)

「まさかいっつも逃げることばっか考えながらやってるんですか?」 「そうじゃないけど逃げなかったら勝てねえと思わねえ? これは国策にも合致してるんだ。先帝は人(ひと)を以(もっ)て本(もと)と為(な)すっておっしゃってたじ …

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九十四、遺言(10)

「だってさあ、『やっぱ戻るよ。顔見れたら安心した。じゃあね』なんて言うんだもん。それが今生の別れになったら夢見が悪いじゃん。なんだよ『顔見れたら安心した』って。俺のせいかよふざけんな」 「隊長はやっぱり、李隊長が逃げるこ …

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九十四、遺言(11)

「部(ぶ)首(しゅ)の旁(つくり)のほうを見れば見当がつきますよ」 「へえ。筋がいいな。字を覚える気ねえの?」 「ないです。うっかり読み書きなんかできたら変な役職につかされて足抜けできなくなりますからね」 「俺様みたいに …

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九十四、遺言(12)

「隊長はどんな様子だった?」 「いつも通りでした。壊れた扉をへらへらしながら地味に自分で修理してましたよ。自分で壊したからな、って。あと、なんか遺言(ゆいごん)書いてました」 「遺言?」 「はい。頭を殴ったからには一生面 …

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九十四、遺言(13)

 頭が痛い。腹は減っているのだが気持ち悪くて何も食べられないので夕食も摂(と)らず横になっている。ひもじい。悲しい。涙が出そうだ。もうすぐ消灯の時刻だ。起き上がるのがおっくうだが、消灯前にもう一回隊長の様子を覗(のぞ)い …

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九十四、遺言(14)

「あのお、隊長、李隊長が七星(しちせい)作戦に出かけて行く前に、笑顔で見送っておきながら突然李隊長の服を引っ張って引きとめましたよね。あれ何だったんですか?」 「さあ」 「どうして引っ張ったんですか?」 「いや、べつに引 …

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九十四、遺言(15)

「じゃ、どうして行ったんですか?」 「まあなんとかなるかな~と思って。李さん止めようとしたけど聞いてくんなかったし。俺予感があってもシカトして自分が決めた通りに行動したことはこれまで何度かあったけど、それでひどい目には遭 …

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