百、最期(さいご)(1)

「引き続き部隊のとりまとめを黄(こう)さんにお願いしたいけど、大丈夫?」 「はい。お任せ下さい」 「ぽんぽん痛かったりしねえ?」 「あんよが痛いですけど、大丈夫ですよ」 「そ。じゃあお任せします。よろしく」 言い終えて周 …

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九十九、強行軍(1)

 坂道をくねくねと登る。前回の遠征が終わって以来、足かけ三年もかけて、俺たちは何をやってきたのかな。春の筍(たけのこ)も食べず、縁談も打ちやって、半月もかけて歩いて来た道を、空しく引き返す。俺は十代後半からの面白くてしょ …

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九十九、強行軍(2)

 飴玉(あめだま)、ないスか。お、来た、飴玉。ちょうど欲しい頃に回ってくるよな~。生姜(しょうが)飴(あめ)? 体火照(ほて)って汗かいちゃうんじゃねえ? おっと、ゆるやかな長~い下り坂、そして川風。ふうん、ここで寒くな …

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九十九、強行軍(3)

「体調はいかがですか?」 「ぼちぼちです」 「朝のお薬ちゃんと飲みました?」 「飲んだよ。で、喉でゴロゴロして吐きそうだったからお茶で流し込んだ」 「そういう目的でお茶淹れてたんですか?」 「いや。野生動物さながらの屋外 …

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九十九、強行軍(4)

 さて、二日目の行軍開始だ。ルンルン。例によってのっぺりとした薄曇りだが、もう慣れてるもん。俺は今回はクロのすぐ傍を歩いてるんだ。カポッ、カポッ、カポッ。単調な足音。催眠術か。眠いです。隊長、居眠りしてないだろうな? ち …

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九十九、強行軍(5)

 隊長のいつも通りな感じのお褒めの言葉に、若干の違和感を覚えたのは、たぶん俺だけだったと思う。言葉の内容自体はいいのだが、なんだろう。声の出し方が若干違う。疲れてるのかな。 「あのお、もしかしてちょっと具合悪いんじゃない …

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九十九、強行軍(6)

 さて、三日目の行軍開始だ。明日の夕方にはもう漢中(かんちゅう)に着く。ルンルン。……今日でちょうど道半ばか。面倒くせえな。もう早歩き飽きたっす。なんだか寒い日だなあ。上り坂でもあれば体もあったまるんだろうけど。隊長、馬 …

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九十九、強行軍(7)

「何がおかしいんですか」 「お薬ちゃんと飲んだ? っていちいち確認してもらいながらやってっと、なんかガキみてえだな」 「だって精神年齢五歳なんですよね? 自分で言ってましたよね」 「五歳くらいのガキってよお、なまじ大人び …

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九十九、強行軍(8)

 俺はしばらく熟睡できたと思う。辺りは依然として闇だ。暗いのは変わらないが、夜明けが近付いていることが感覚で分かる。まだもう一眠りできそうだ。再び熟睡に入ろうとしたところで、朦朧としながらも異変を察知する。隊長の呼吸が若 …

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九十九、強行軍(9)

 平常であれば二十日鼠(はつかねずみ)のように絶えず動き回っている隊長がぼんやり座ってのろのろと水を飲んでいるところを見て、黄(こう)屯長が心配そうに尋ねた。 「体調はいかがですか」 「元気ねえんだよ。薬の副作用。あんま …

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九十九、強行軍(10)

 今回の行軍では、俺はずっと隊長の馬の横を歩いている。俺の位置から隊長の表情を見ようと思うと顔をぐっと上に上げないといけないのでそうちょくちょくは見ないのだが、隊長のすぐ前には黄(こう)屯長がいて、しばしば振り返っては隊 …

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九十九、強行軍(11)

 クロは陽気でおっとり屋で本当にいい奴だ。慣れない人間が轡(くつわ)を執りに来ても全く嫌がらない。隊長がクロに乗り始めた頃は、クロはまだ三歳で、ぴょこぴょことしてやんちゃで半ばガキンチョだった。三十そこそこで部曲督(ぶき …

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九十九、強行軍(12)

 隊長と一緒に歩いている時に、一名の落伍者も出ないのがかねがね不思議だった。日頃から歩く練習をしっかりやっているとしても、その日の調子によってどうしてもついていけないとか、不意の故障とか、そういうことが起こるのが普通なん …

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九十九、強行軍(13)

隊長がサッと前を向く。と、後ろをちょくちょく振り返っている連中と目が合う。隊長はニコッと笑った。 「後ろ向きながら歩いてると転んじゃうぜ。前向いときな」 前の連中は安心した様子だった。ガキがガキを率いているんだな。隊長は …

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九十九、強行軍(14)

「魏(ぎ)の兵隊が、そんなに早く秦嶺(しんれい)を抜けて来るんですか? 関所だってあるのに。なんでこんなに急ぐ必要があるんですかね」 「お前、南谷口(なんこくこう)で、たとえどんな敵が現れても驚くんじゃないぞ」 「え、な …

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九十九、強行軍(15)

べつに隊長は俺の魔法だとは言ってない。しかしこの言葉の面白さに、みんな笑いながら冗談のようにして塩を舐める。ふつうに塩を舐めろと言うだけだったら、喉カラカラなのに塩かよ、ふざけんな、という反応になったことだろう。俺もほん …

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九十九、強行軍(16)

 ようやく桟道を抜ける。ほっとしすぎて体中の力が抜けそうだ。横を歩いているクロの動揺のない蹄(ひづめ)の音に励まされながら進む。クロの奴、一日中隊長を下ろさずに歩かされているのに文句一つ言わずに黙々と歩いている。なんてい …

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陸積「ママにミカンをあげたい」は名声上げの茶番かも!?

三国の呉(ご)の重鎮・陸遜(りくそん)は呉(ご)郡(ぐん)陸(りく)氏(し)といわれる名門の一族の人物です。陸遜の祖父の弟の子である陸績(りくせき)は、六歳の時に袁術(えんじゅつ)を訪問して、出された橘(みかん)を「お母 …

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