二、城壁にて(1)

 兵隊の朝は脱兎のごとしだ。起床の太鼓とともに跳ね起き、鼓声三通の間に身支度を済ませて外へ飛び出す。軍隊ではいつでもどこでも自在に眠れるという技能が非常に重要であるから、精鋭の俺達が起床の太鼓の鳴る前に目覚めてしまうこと …

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二、城壁にて(2)

「料理を褒められりゃ嬉しいよ。旨いものを作れる奴に悪人はいないって言ってる人がいたぞ。俺それいい話だなと思って信じてるんだ。俺も頑張って旨いもんを作れるようになればいつかは善人になれるかもしんねえなっていう幻想を抱きなが …

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二、城壁にて(3)

「たった一かけの食い物でうっかり人生変わっちまうってことは、ありえねえ話じゃねえな。しっかしありゃあべつに俺の腕じゃないぜ。作り置きしてある材料をテキトーに包んで焼いただけでそんなに旨いはずねえじゃねえか。手に入れるまで …

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二、城壁にて(4)

「そ。今夜は月も明るいしね。絶好の強行軍日和。屯長に召集かけてくれよ」 殊勝にパシリを請け負って屯長たちを集める俺。頃刻(きょうこく)の後、不審顔の屯長達に魔鬼(あくま)はウキウキとあいさつをした。 「おはようございます …

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二、城壁にて(5)

「君らもそういう考えで思う存分やってくれていいんだぜ。君らがなんか失敗した時には俺が将軍にバッキャローって怒られちゃうけど最終的に責任とるのはあの人だ。へっへっへ、お気の毒。まあもちろん俺は今回の強行軍が失敗に終わるとは …

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二、城壁にて(6)

「夜は寒いぜ~」 「鎧着っぱなしってのがイヤだな。くたくたになりそうじゃん」 「最後城壁なんて登れんのかな。握力なくなってそうじゃん?」 「登んなきゃ終わらせねえってよ」 「無理だろ。隊長クビ!」 奴らがゲラゲラと下品な …

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二、城壁にて(7)

 さんざんな悪口雑言を吐き散らしたせいか、俺達はなんとなく意気消沈して帰路についた。隊長がふさぎこんでいたせいかもしれない。なぜ不機嫌だったのか分からない。楽しい遠足がもうすぐ終わってしまうからだろうか。哀しい気分はみん …

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二、城壁にて(8)

「歌うことに集中して頭真っ白になって城通り越しちまうってこともありえねえ話じゃねえな」 「だから隊長まで一緒になって歩かなくたっていいんじゃないんですか」 「こういうことが好きなんだよ。うっかり城通り越しちまったら将軍に …

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二、城壁にて(9)

 俺は隊長を下に残してさっさと城壁を登ってしまった。とくに考えがあってしたことじゃない。元気があるから、早い者勝ちだと言われてさっさと登っただけだ。隊長は下に残り、登るのに手間取っている奴らをはげましている。はげましてい …

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二、城壁にて(10)

隊長は落ちこぼれの横にかがみこんで訊ねる。 「登んなきゃ終わんないけどさあ、お前どうする?」 落ちこぼれの戦友は何やらメソメソぼそぼそと返事をする。すると隊長は城壁の上に向かって呼びかけた。 「呉屯長(ごとんちょう)」 …

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二、城壁にて(11)

「じゃどうするんですか?」 「全員登るまで何日でも待ってやるぜ。あんまグズグズやってると将軍が俺のことを罷免しにやって来るかな? ひゃっひゃっひゃっ」 「一体なんの嫌がらせなんですか?」 「嫌がらせのつもりはないよ」 「 …

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二、城壁にて(12)

「おれ無理っぽいことをおとなしくやめるっていう習慣ないんだ。冒険に付き合わされる奴は災難だけどな。公惟どうする? 俺に命預けちゃう?」 ボソボソと答える公惟。 「考え直せ!」 宋什長が叫んだのと、隊長が 「じゃ決まり。お …

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二、城壁にて(13)

「嫌だ! 降ろせ! 人殺し!」 「さあこの世に未練はないかな?」 「ないわけないだろ馬鹿野郎! 降ろせよ!」 「言いやがったな。落ちろ! 死ね!」 騒動を聞きつけてみんなが下を覗く。 「なにモメてるんだ?」 「隊長ー、頑 …

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二、城壁にて(14)

さんざん大騒ぎをして公惟と隊長を引き上げる。九死に一生で助け出されたくせして、隊長は満足げにこうのたまった。 「やったなあ。全員城壁登ったじゃん」 「最後ちょっとズルがありましたけど」 「ズル? どこが?」 「助けてもら …

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