四十五、無為(1)

 うちの部隊が今回の戦役で失った人数は公称で二十五名ということになっているが、実際は九十二名だ。隊長が会戦の当日中に書いた戦闘詳報にはちゃんと実数が、というか一人一人の氏名が書かれていたはずだが、公称となると矮小化された …

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四十五、無為(2)

「切断して、重さで分けたらどうでしょう?」 「ほお。」 「こま切れになったら不便じゃん。溶かして九十二個の鋳型(いがた)に流し入れて固めたら?」 「なるほど。じゃ、やって。」 隊長が鋳型論(いがたろん)の論者に銀貨の包み …

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四十五、無為(3)

 午前中は各屯に分かれて新入り君たちに身の回りのことなどを教えてやり、午後から全体で基本的な隊列移動の練習をした。新人たちは、ほんとに基礎教育終えて来たのか? と思うほど合図もなにもうろ覚えでめちゃくちゃだが、隊長は全く …

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四十五、無為(4)

 翌日もゆる~い訓練を施されるだけだった。隊長はいいとも悪いとも言わずにニマニマと見ている。午後からは屯長たちに勝手にやらせておいて、隊長はテントウムシを捕まえて遊んでいた。休憩時間にちょっと近づいてみたら、 「テントウ …

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四十五、無為(5)

仲審はかまわず真顔で話を続けた。 「いいかい、俺達は、司馬懿を殺して中原(ちゅうげん)を獲らなきゃいけないんだからな。司馬懿って知ってるか?」 「魏の大将軍です。」 「司馬懿がいつも俺達の邪魔をしてるんだよ。夷陵(いりょ …

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四十五、無為(6)

「終わっちまってんじゃねえの。兵隊の頃は匹夫(ひっぷ)の勇(ゆう)を誇ってたかもしんねえけど。」 「最前線で怖い思いし過ぎていかれちまったかな?」 「傷病手当の代わりに役職貰ったのかもなー。」 「毎日遊んでるばっかの税金 …

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四十五、無為(7)

「隊長!」 「はい。」 呑気に豆沙夾心(ドウシャージアシン)なんか齧(かじ)っていやがって! 「なんで最近ぶらぶら遊んでばっかでちっとも真面目に仕事しないんですか? ご隠居さんじゃあるまいし!」 「真面目にぶらぶらしてる …

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四十五、無為(8)

「どんなお仕置きするんですか?」 「そうだなあ。全軍の前で俺が出師(すいし)の表(ひょう)を朗読してやろっかな、琅邪(ろうや)訛りで。」 「そんな侮辱を与えて誰が得するんですか?」 「損する奴しかいねえな。夾心(ジアシン …

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四十五、無為(9)

「えっ! 我が国の官僚の皆さんはほとんどがそうなんじゃないんですか?」 「クックック。」 「うわ、なにその笑い方。」 「少なくとも劉伯(りゅうのおっさん)は漢の忠臣なんかではなかったぜ。」 「そりゃそうでしょう。臣下って …

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四十五、無為(10)

「え~、でも、だからといって、王朝の転覆なんて図ったらだめじゃないですか。」 「王朝の転覆を図るのがいけないことだなんて、どんな奴らが言ってるんだ?」 「昔から偉い人たちがずーっと言ってることじゃないですか。」 「偉い人 …

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四十五、無為(11)

「文字を読まないのになんで文字の魔力にひれ伏すんですか?」 「元来、文字っていうのは神様と交信する手段だっただろ。読み書きは一部の特別な人たちだけに許された秘術だったわけ。だから、読み書きできる人の言うことはきっと素晴ら …

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四十五、無為(12)

「え、注げばいいんじゃないんですか? 読書人がお勉強してるのは、政治を行うためでしょう?」 「肥大化しちまってんじゃねえの? そんな人数いらねえんだろ、きっと。あぶれちまうから変な方向に力注いじまうんじゃねえの。お勉強ば …

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四十五、無為(13)

「じゃあ、丞相はどうなんですか? 曹操のことを目の敵にしてますよね?」 「あの人は曹操の徐州(じょしゅう)大虐殺の被害者だからな。しかしよお、赤壁(せきへき)の戦いの後、曹操の命を獲らずに逃がしてやってるぜ。曹操の命を獲 …

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四十五、無為(14)

「……あのお、言っときますけど、自分、天下に対して不満なんて何一つありませんからね。隊長が名族に対してどんな恨みつらみを持っていようと勝手ですけど、自分そんなの全然関係ないんで。くれぐれも仲間だと思わないで下さいよ。」 …

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