五、魔境(1)

 次の日から、軍刀術の型はほぼ毎日訓練に組み入れられた。最初は文字通り、型の練習だけだったが、型が完全になると、次には重心の移動の仕方を教えられた。今どっちの足に体重が乗っていなければいけないか、とか、そういうやつだ。そ …

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五、魔境(2)

「また十二、三人分ですよね。」 「そんなもんだろ。」 「じゃあまた手勢令(むしジャンケン)でどの什の奴が貰うか決めていいですか。」 「へっへっへ、手慣れたもんだな。ご自由に。」 う~ん、什単位か。そうすると、王什長が手勢 …

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五、魔境(3)

「このあいだ三百里歩いたじゃん? 足腰痛くなっちゃったり血豆できて皮剥けちゃったり、けっこう苦労したろ?」 「えっ……はあ。まあ。」 「みんなだいたい治ってきたかなあ。」 こう言ってみんなを見まわす隊長。顔と顔を見合わせ …

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五、魔境(4)

 我が軍伝統の生民(せいみん)体操を行う。これは文字通り、詩経(しきょう)の「生民(せいみん)」を歌いながら様々に身体を動かすというもので、最初から最後まで端折(はしょ)らずに行うととてつもなく長く、終わった頃には全身汗 …

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五、魔境(5)

 朝の空気に冬の匂いを感じるようになりだしたある日、隊長はニッコリと笑ってこう言った。 「みんな歩くの上手になったな。もう下手くそとは言わないぜ。諸君の発言権をお返しします。俺に文句があるならガンガン言いな。」 ガンガン …

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五、魔境(6)

 隊長の馬は名馬玉追(ぎょくつい)の孫で、まだ稚気の残るやんちゃな三歳の青毛(あおげ)の雄、去勢もしてないたいそう難しそうな代物だ。自前で馬を用意するのが大変だろうからと誰かが気を回して余っていた軍馬を回してくれたらしい …

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五、魔境(7)

 夕方になり、西漢水(せいかんすい)が見えてきた。水面が黄金色に輝いてきれいだ。早朝から早足で歩き通しなのに、景色を楽しむゆとりがあるとはどういうことだろう。身体が歩き続けることに慣れている。本当に疲れを知らない。異常な …

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五、魔境(8)

「お一人一つ、自分のを取ったら前の方に回して下さい。」 へえ、こんなの持ってきてたのかよ。何の変哲もない甘い飴だが、口の中でころころと転がしていると気が紛れた。舐め終わって再び退屈した頃に、 「はい、こんどは胡椒味。」 …

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五、魔境(9)

 行軍三日目、行動開始早々、折り返しの作業にとりかかる。狭い桟道なので、後方の連中が道の脇に詰めて止まっているところに、前方の連中が折り返して戻って来る。二日二晩の間、ずっと二列縦隊で進んできたので、自分の前に進んでいる …

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五、魔境(10)

 早歩きは苦にならない。天気もいいし、楽しい。周りの風景も生き生きと動いている。ルンルンと坂道を下る。と、隊長が突然 「早い!」 と怒鳴った。 「早い早い! ころころ転がってく球体じゃあんめえし、元気なあんよがあるのにな …

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五、魔境(11)

 ものすごく慎重に歩を運ぶ。これは俺だけが気を付けていたってどうしようもないことだ。前の連中のでき次第だ。みんながすごく真剣に歩いているのが分かる。雑談の声は一切聞こえない。足音と、装具のカチャカチャいう音だけだ。みんな …

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