五十七、石礫(せきれき)(5)

「隊長が変なんじゃないですか」
「そうして起きてきて、言われなくても決まり通りきちんと並ぶじゃん? これもすごいことだよ。何をしなくちゃいけないか理解して、自らきちんと行動してるわけ。今日はそこに並ぶ気分じゃない、とか、なんで並ばなくちゃならねえんだバッキャロー、とか、並んだとしてもいいかげんに並んでぐちゃぐちゃ、とか、そんなことはなく、毎日ちゃあんと並ぶ。スゲエよ」
「馬鹿じゃないですか?」
隊長はニコッと笑った。
「俺は目に見える光景に素直に感動してるだけだよ。俺が毎日ルンルン過ごしていられるのは諸君が毎日俺に感動を与え続けてくれているおかげだからな。そんな恩人の皆さんに対して、俺はいちいち感謝や称賛の言葉を出さず、たまに何かできてないことに対して細かくネチネチ言ってるわけ。さっき言ったようなことを毎日全部褒めきることなんかできねえからな。しかし内心ではすげえと思ってる」
「ふうん。馬っ鹿じゃねえ?」
「ギャハハハハ」
「なんでいっつも人から馬鹿にされると喜んで笑うんですか?」
「嬉しいよ。面と向かって馬鹿だとかなんとか言ってもらえるなんてありがたいことじゃん。関心なかったらわざわざ馬鹿だとも言わねえだろ。馬鹿だと思いながらも愛想尽かさず付きあって下さってるなんてありがたくて泣けそうだ。泣く代わりに笑ってるわけ」
「ほんと泣き虫ですよね。気色キショいんだけど」
「そうだ、俺に面と向かってキモいウザい死ねって言ったら即死するからな。たちどころに心停止する」
「それ丞相が隊長にかけている復活の妖術を解く呪文なんですか?」
「死んだら遺体は野ざらしでもなんでもいいから。ばあちゃんが氐族ていぞくだからさ、土に埋めなくてもべつに残酷にはあたらないんじゃねえかな。火葬も衛生的でいいかもね。俺は仏教徒だから遺体の扱いについてはなんにも気にしなくていいよ」
「へえ、仏教徒なんですか」
「うん。教義はほとんど知らないけどちょくちょくお寺に通ってるから仏教徒だ」
「サイコロ振りに行ってるだけじゃないですか」
曼荼羅図まんだらずを見に行ってるんだよ。そんで宇宙のことを考えたりさ」
「絶対ウソでしょう」
「ひゃっひゃっひゃっ」
宇宙のこと? なんだそれ。ほんと、わけわかんない人だ。笑っているかと思ったら、ふと真顔になった。
「どんなことが当たり前かっていうのは、文化によって違うだろうな」
「え、それ宇宙的規模から何か言おうとしてます?」
「いや全然」

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