六十四、お粥の話(3)

「そんな連中はシカトして、グレてない人を育てて使えばいいんじゃない」
「グレてないような人は郷挙里選きょうきょりせんで推挙されないんですよ」
「じゃ、まず、あれが必要かな。選挙改革」
「九品官人法にでもしますか」
「それマジに言ってんの?」
「隊長こそ真面目に言ってるんですか? 人材登用のことなんて、偉い人に任せて放っとけばいいじゃないですか」
「偉い人がしっかり考えてくれてるんなら放っとくけどな。そういうふうには見えねえ。俺が納得するような態度を見せてくれりゃあ俺だって大人しくするよ」
「どんだけ偉いつもりなんですか」
「偉いんだ」
自分で自分のことを偉いと言いながら、隊長ははにかんだように笑った。
王侯おうこう将相しょうじょうがいかに貴くとも、前線指揮官を納得させられなければ一兵たりとも動かねえぜ」
――なんか嫌だな。そうだよ、確かに前線指揮官は偉いんだ。隊長が楽浪郡らくろうぐんまで行くぞ、って言ったら、うちの部隊の連中はきっと行く。命ある限り。たとえそれがいかに暴挙で何の必要もないことであっても。俺たちはべつに国策とか皇帝の命令とかそういうことで動くわけじゃないんだ。天下とか夢とか希望とか、そんなこともほとんどの奴にとっては曖昧あいまい模糊もことしたものだろう。一方、隊長の存在は圧倒的な現実だ。
「言うこと聞かない前線指揮官なんて、クビになるだけですよ。納得できるかどうかなんていちいち考えないで指令を盲目的に遂行するのが前線指揮官の仕事じゃないですか」
「俺は自分の納得できない戦いには加担したくない」
「ふうん。いいですねえ。選択の自由があるご身分は」
「季寧だってなれるぜ。何かお手柄でも立てて兵戸へいこから抜けて士人しじんの爵位を得ればいいじゃん」
「簡単に言わないで下さいよ」
「そういう簡単じゃないことをやった人は天下に掃いて捨てるほどいるようだぜ」
「戦場でお手柄なんて立てようと思ったら危険なことしなくちゃならないじゃないですか。そんな際どい賭けはしないんです。家族を背負ってるんですからね」
「そんならそれが季寧の選択だろ。怨みがましいこと言うなよ」
選択か。そうやって自分の責任にせられちゃうとキツいんだけど。確かに、運命を切り拓く選択肢がないわけではない。でも、そんなことはまっとうな良民が考えるようなことじゃないんだ。生まれた境遇で大人しく過ごして、その境遇に不満があれば偉い人のせいにしてブウブウ言って誰かがなんとかしてくれるのを待ち、誰もどうにもしてくれなかったらなすすべもなく泣くだけ。これが当たり前の民の生き方なんだ。俺は隊長のような、手ぶらで世界中どこへでも行けてしまうような風来坊とは違うんだ。

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“六十四、お粥の話(3)” に2件のコメントがあります

  1. 季寧くん現実的ですね
    季寧くんがしっかりしてるから
    隊長さん、ヒートアップしてるような?
    「隊長の存在は圧倒的な現実」
    なんだかんだ言ってても
    隊長さんに命預けてる
    感じします

    小説を執筆されてる作家さんに
    ション友なんて、失礼しました
    五丈原で何が待ってるか
    まだわかりませんが
    楽しみです

    中国の古典も詳しいなんて
    まるクルルさんスゴいです
    はじ三で紹介されてるものを
    検索したことありますが
    豆腐脳の私には難しかったです(汗)

    • 隊長は以前「自分の人生を季寧のと取り換えてしまいたいくらいの憧れを感じる」と言っていました(五十五、狂気(8))。
      自分が持っていないいろんなものをちゃっかり守っていながら自分に対して「いいですねえ」なんて言ってくる季寧くんにちょっとイラッとしたのかもしれません。
      一方、季寧くんは大事な家族があるんだから軍務になんて命を賭けないよという態度をとりたがりますが、実際には隊長に心身共に掌握されてしまっていますね。
      戦争が終わってくれないと誰も幸せになれなさそうな気が……
       
      私は全然作家ではなくて、趣味で書いているものを読んで頂いている三国志が好きなだけの人で、ション友になって頂けるというのはとても嬉しいのですが、泌尿器の構造上の違いから物理的に難しいのではないかとか、女性が何度も何度もオシッコの話を連呼していて大丈夫なのかという戸惑いもあり、
      「戦友」なんていかがでしょうか?
      よろしくお願いします!
       
      中国の古典には詳しくはないですが、三国志が好きになると他の中国古典も面白く感じるようになって読むようになりました。
      古典の難しい内容はよく分かりませんが、なんとなく気持ちが通じそうな部分をみつけて「昔の人も今の人も同じなのね~」と考えることが楽しいです。
      脳みそを豆腐にたとえる表現は留学中の友人が何気なく言った言葉ですが、面白いたとえだなと思ってずっと使っています。
      脳みそが豆腐……面白いですよね♪
      味のいい豆腐だったらいいなと思います!

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