六十四、お粥の話(4)

俺は深呼吸をしてから、ゆっくりと言った。
「遊牧民は、いい牧草が生えている場所を探して移動していくという知恵を持っているようですね」
「俺が混血のやさぐれ者だから馬鹿にしているのかな?」
「隊長こそこっちのことを生まれた環境にしがみつくしか能のない愚民だと思って馬鹿にしてるんじゃないんですか」
「馬鹿にしてない。偉い奴だと思ってるよ。生まれた場所にずっといようと思ったら、いろいろ制約もあるだろうし、そこにいるために努力も必要だろ。それを投げださずに頑張っているのは、郷里や家族を愛しているからなんだろうな」
「そんなの人として当たり前じゃないですか」
「自分ばっかり当たり前みたいな顔しやがって」
「機嫌悪いですね」
「こんどここへ来る千二百人は、前回の遠征のどさくさで強制移住させられて来た羌族きょうぞくの新兵なんだ。もし季寧が内心では異民族に対する差別意識を持っていたとしても、それを人前であからさまに表現するのはやめてくれ」
「え~、羌族きょうぞく! あははは、それやっぱ絶対いやがらせですね。このあいだの遠征でうっかり羌族の言葉をかじっちゃったもんだから、足をすくわれたんですよ。特技があだになるってこともあるんです。もしこれでその千二百人をうっかり上手に管理できてしまったら、仮に我が国が中原を制圧して東征をすすめていくにしても、隊長は一生涼州から一歩も出してもらえませんよ」
「ま、それならそれでいいけど」
「えっ! いいんですか?」
「他の人が遠征してくれるんなら後方でキッチリお勤めするだけです」
「しょぼいっすよ」
「季寧は遼東りょうとう江南こうなんまで遠征したいわけ?」
「いや自分は行きませんけど隊長は行くでしょ、当然」
「なんでだよ。ま、行けと言われれば行くだろうけどさ。全体が上手くいくならその中で自分が何をやる係になろうといいよ」
「なにいい子ちゃんぶってるんですか。ちょっとは仕事を選んだほうがいいですよ。羌族なんて、羌族の酋長しゅうちょうに率いさせておけばいいんじゃないんですか?」
「それだと統制がきかないだろ。それとさ、今回の千二百人っていうのは涼州りょうしゅうの中でもバラバラのところから来てるから、一口に羌族と言ってもみんなちょっとずつ違うんだよ。どっかの部族の有力者を代表に立てたら部族間で絶対もめるし、山ひとつ越えたら方言で全然会話が通じなくて結局羌人同士で漢語で会話する、なんてこともあるようだからさ。いっそ漢人を親分にすくえたほうがまだマシなわけ」

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“六十四、お粥の話(4)” に2件のコメントがあります

  1. 新兵は異民族で部族間の問題もあり
    隊長さんても、まとめるのは
    さすがに厳しいのでは?

    混乱させてしまって失礼しました
    コメントを削除して頂いても問題ありません

    『戦友』了解てす
    足引っ張らないよう鉄鎧を身につけて
    六百里の行軍で鍛えますm(._.)m

    隊長さんのおっしゃる通り
    俺のままてやるしかない
    母親が産んでくれたことに感謝ですね

    • いろんな部族をまとめるのはきっと誰がやっても難しいですよね。
      誰がやっても難しい仕事と誰から見ても異常な隊長の悪魔合体で何か面白い化学反応がおこるといいですが( ´艸`)
       
      ション友のお話は下ネタが嫌いではない内心ではとてもオイシイお話だと思っているのですが、どこで口に出しても恥ずかしくないように名称だけは「戦友」といたしましょう!
      頭のなかでは「戦」という字に「ション」とふりがなをふりつつ(≧∇≦)
       
      長編小説ってちょっと強行軍みたいなところがありますよね。
      読むのがしんどいような部分があってもお付き合い頂けると、踏破した時の感慨もひとしおかと思います。
      ぜひ最後まで(ご無理のない範囲で)よろしくお願いします!

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