六十四、お粥の話(6)

「そういう、普通の人に対して使うような用語で評価されるとピンときませんけど」
「俺は将軍のことを信頼してる」
「丞相のことは信頼してるんですか?」
「そんなふうに考えたことねえな」
「信頼してないんですか?」
「考えたこともなかったよ」
「一心同体?」
「いや」
「あのお、分かりやすく説明してくれます?」
「分かりやすくは言えないよ。感覚的な話だ。俺が臥竜がりょう先生のいおりに起居するようになって間もない頃に、先生の几案つくえの上に小銭が無造作にじゃらじゃらと置きっぱなしになっているのを見つけたんだ。お金をこんなところに出しっぱなしにしてだらしない人だな、と思って放っておいたんだけどさ。どうやらそれは、俺が小銭をちょろまかさないか見てやろうという、先生独特の人物鑑定法だったようだ。それに気付いた時は、孔明ってのはつまらねえ野郎だなって思っちまったな」
「ふうん。いかにも、って感じの話ですね」
隊長は目が覚めた人のようにはっと俺の顔を見た。そしてゲラゲラと笑い始めた。
「こんな話、兵隊さんに聞かせる話じゃねえな」
「いま気付いたんですか? ずいぶん前からいろいろと不適切な話題をぺらぺらとしゃべっていませんかね。ション友だからいいですけど」
「ション友って範囲も逸脱してるよな。ション友ならさあ、最近前立腺ぜんりつせんの具合はどうですか、いやぁ最近深酒ふかざけするとションベン出にくくなって困ってるんだよ、みたいな会話に終始しそうじゃん」
「え、隊長、深酒するとションベン出にくくなるんですか?」
「いや、幸いにして今のところそういう悩みはないけどさ。聞くところによると、男は年とともに出づらくなり、女は年とともに出やすくなっちまうってのが一般的な傾向らしいから」
「そんな話、誰から聞くんですか」
「おれ自分の親くらいの年の人とよもやま話をするの好きなんだ。そして自分の三十年後の姿を思い描くわけ」
「排尿困難な老人の姿を……」
隊長はなぜかはにかんだように笑った。
「例えばね、めでたく引退して、どっかの没落貴族が手放した四合院しごういんの一室に住んで、同じ四合院しごういんに住んでる奥さんたちに混じって共用の流し場で野菜を洗ったり料理をしたりしながら余生を過ごすとすんじゃん? あのじいさん独り暮らしだから、ってちょくちょく気にかけてもらったりなんかして、おじいちゃん御汁おつゆいっぱいできたから飲んでね、なんて鍋持ってきてくれたりするわけ」
「独り暮らしが前提ってとこからして間違ってますよ」

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“六十四、お粥の話(6)” に2件のコメントがあります

  1. 分かりやすく言えない
    人の感情は複雑ですね

    新兵の訓練、大変ですねって
    コメントしてましたが
    よくよく考えたら
    私も新兵みたいなものでした
    千二百一人目として
    訓練頑張ります(笑)

    • 特に自分で自分の感情を理解することが難しくありませんか?
      「分かりやすくは言えないよ」とさらりと言えるところまでたどり着くにも結構な人生経験が必要そうだなと思います。
       
      読んで下さっている方にも訓練を受けているような感覚を味わって頂けているということでしょうか(^^)
      軍隊生活はいかに上手に手抜きをするかが大切だとよく聞きますので、ぜひお気軽にお読み下さいませ♪

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