六十四、お粥の話(7)

隊長は手で俺のツッコミを制止して話を続けた。
「俺がまともな間はそれでいいかもしんねえけどさ、いずれ頭が耄碌もうろくしちゃったりして、乱暴な言動をしたり、夜中に裸足でふらふら出歩いてトラ箱と自宅を行ったり来たりするようになると、近所の人たちも不気味がって寄りつかなくなるじゃん? そんでさ、最近あのじいさん見かけないな、なんて思われても、どうせまたどっか徘徊してるんだろう、なんて放っとかれるわけ。そんなある日、なんとなくどこからともなく異臭が漂ってくるんで近所の人がもしやと思って覗いてみると……」
「ちょっと! なに最悪の想像してるんですか!」
「でさ、近所のおじさん達が、あ~あ~まったくよお、誰がこの後始末するんだよ、俺たちかよ、って思いながら、里魁村長に通報したり部屋の中のがらくたを処分したりしてくれてさ、数日中には綺麗さっぱり跡形もなくなって、一月もすれば何事もなかったように次の住人が入居するわけ。小っちゃい子供のいる若い家族だったりしてさ、ああこんな元気な人たちが住んでくれてよかった、なんて思いながら、その部屋で一月前にどんなことがあったかみんなそっと口を閉ざしているという、めでたい結末」
「どこがめでたいんですか」
「人生、どんなことがあっても最後には綺麗さっぱりなかったことになるよ。どんな人間だって等しく無にすんだ。これは安らぎではないかな」
「なるべく子孫を作って、介護、葬儀、死後の祭祀さいしまで心配ないようにするべきです」
修身斉家しゅうしんせいかこくへいてん?」
「は?」
「その発想だと、できる奴とできない奴の差が開いてく一方だな。自分が人から迷惑をかけられることなんか何とも思わねえし、人にうっかり迷惑かけちまってもさほど気にやまず素直に感謝するという、そういうのが当たり前な社会になるといいね」
「それ宗教の話ですか?」
「政治の話」
隊長はなぜかにっこりと笑った。
「丞相は偉い人だな」
「はあ」
「俺が東州兵とうしゅうへいだった頃、」
「え、東州兵だったんですか? あの泣く子も黙る東州兵?」
「その東州兵だった頃、なんだか知らないがどっかのお役人さんの旅行の警護をしたことがあるんだ」
「東州兵に関する解説は一切なしですか?」
隊長はうなずいて話を続けた。
「その旅行はさ、州でやってた何かの事業を清算するっていうんで、余った予算を使い切るために何か名目をつけてもっともらしくやったみたいなんだけど、まあはたから見ればただの観光旅行のように見えたな。いいもん食って名所を回ってさ。楽しそうだったよ」

ページ公開日:

“六十四、お粥の話(7)” に4件のコメントがあります

  1. 素直に感謝する
    そういうのが当たり前な社会
    そうなってほしいですね

    隊長さんが東州兵だったころは
    政治が乱れてた……
    丞相のおかげで役人の腐敗が
    減った的な感じですかね?

    上手に手抜きする方法考えてます

    小説、読み直してるんてすが
    季寧くんが四男だったなんて!
    実は私も四男てす(笑)

    • 現代でもそういうのが理想ですよね。
      子育ても介護も核家族だけで抱え込まないでみんなで助け合うのが当たり前になってくれると社会が明るくなるんではないかと思うんですが……
       
      東州兵は劉璋の虎の子の精鋭で、劉備が蜀に入る過程で劉備軍に吸収されたんだろうと想像しています。
      劉備の蜀政権にはいろんな立場や考えの人がいたので、いちいち顔色を伺いながらではやっていられないということで、カリスマ劉備亡き後は法に基づく統治をするしかなかったんだろうと思います。
      法が明確だとみんな安心して自分の本分を果たすことができるので、暮らしやすくなりそうですよね(法の内容が妥当じゃなかったらだめですが)。
       
      よんよん様は四男なんですか(^^)
      聞けばきくほどラッキーナンバーの4にまつわる情報が出てきそうな予感が……!

  2. 背中に赤い星を背負って馬に跨り紫の朝焼けを駆けていた5人の東州兵を描いた物語が「益州爆走族」でしたよね(゚∀゚)

    • そうそう、で、乗馬のできない人が二人乗りの後ろに乗っていて旗を持つ係なんですよね!(うそうそ)
      「益州爆走族」、本気で面白そうですね……〆(.. )メモメモ
       
      ※元ネタは吉田聡の漫画「湘南爆走族」です

コメントする