六十八、葫藘絲(フールースー)(2)

「いや。それはあれだろ、おしゃれ用のちゃらちゃらしたやつが女子の人数分なかったんじゃねえ? 姉妹で共用で使ってるやつを姉ちゃんがつけてでかけちまったんじゃねえの。想像だけど」
「だから不機嫌だったのかなあ」
隊長がまたくしゃみをした。
「さっきから、なんなんですか?」
「いや……。ギャハハハハ」
「耳に穴を開けるなんて、異民族の文化なんじゃないですか? 儒教精神に反しますよね」
「自由な時代なんだろ」
出来上がった生地をでながら、もう一つの鍋に山羊やぎちちをどぼどぼと注いでいる。
「オエ。気色きしょくわる
「旨いじゃん、山羊の乳」
つゆは透き通ってないとだめですよ。白濁してるなんて邪道です」
白湯パイタンもだめ?」
「いや、あれはいいんですよ。れっきとした中華料理じゃないですか」
「そういうこだわりで可能性を狭めてしまうのは惜しいことだな。ま、お嫌でなかったらどうぞ」
「オエ」
「いらない? じゃ俺様が一人占め」
「どうして今日は部屋の中でコソコソとちょびっとだけ作っているんですか?」
「山羊の乳を料理に入れるって初めてだからさ。試作」
「試作品を自分に勧めたんですか?」
「うん。一蓮托生の仲だと思っていたんだがな。どうやら違うらしい。危ない橋は一人ぼっちで渡るとしよう」
「どう見ても美味しそうじゃないですか」
「あっそ。じゃどうぞ」
山羊の臭いがほのかに立ち上る椀を俺に差し出してくる。
「はあ。いただきます」
山羊の乳には抵抗があるが、隊長の作る料理が不味いはずはない。思い切って口に入れる。…………。ああ、お母さん。涙が出そうだ。思えば、俺たちは生まれて来る前はみんな裸でいたんだ。みんなみんな、こういう世界からやって来たんだよ――。
 隊長が椀に口を付けながら、湯気の向こうでニコッと笑った。
「旨いね」
うん。旨いです。隊長がくるくる丸めていた通心粉トンシンフェンみたいなやつも美味しいです。動物の乳のねっとり感と、小麦の生地のモチモチ感が、未だかつて味わったことのない甘い感傷を呼ぶんだ。俺はうるうるしながら無言でうなずいた。むつきを纏った赤ちゃんに戻った気分だ。

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“六十八、葫藘絲(フールースー)(2)” に2件のコメントがあります

  1. 隊長さん、研究熱心ですね
    食レポも見事ですね
    読んでてお腹空きました(笑)
    季寧くん、乙女になってしまったよですね(汗)

    『わが魔王、五丈原までお供させて頂きます』
    ジオウ面白いです
    レンタルDVDチェックしてます

    五丈原見えてきたんですね
    どんな展開になるか楽しみですが
    『ショッケンひにほゆ』の完結の日も近いってことですね
    なんか複雑な心境です

    • 隊長は好奇心旺盛で何事も一旦は試してみる人ですが、料理に対しては特別に熱心です。飽くなき探究心です!
      季寧くんはふだんのしゃべり方はだらだらしているのに食レポの時だけ情熱的にしゃべりますよね(笑)
      隊長に胃袋をつかまれて恋をしてしまわないか心配です。
       
      おお、よんよんさんもジオウを見ていらっしゃる! ジオウ、面白いですよね♪
      私は仮面ライダーシリーズは小さい頃に少し見ていただけでしたが、息子が見るようになってまた見始めました。
      どのライダーもかっこいいですが、フォーゼやゴーストの系統よりドライブ、ビルド、ジオウの系統が好きです(ライダースーツのデザインが)。
       
      五丈原は見えてきましたが、見え始めてから一歩一歩肉迫するのは遅いです(笑)
      歩兵の行軍は歩幅の分しか進まないので……
      ぜひゆっくりお楽しみ頂ければと思います!

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