六十八、葫藘絲(フールースー)(6)

八角はっかくが入ってるんだ。前にお母さんの作った冬瓜とうがんの煮物をごちそうになったことがあってね、ほんのり八角はっかく風味で旨すぎて忘れられず夢にまで出て来るから、また作ってもらおうと思ってさ」
「いつのまにウチに上がり込んでお袋の手料理まで食ってんすか。あっ! まさか俺のめいを狙ってるわけじゃないでしょうね!」
「なるほど。三十年先まで見据えて行動するなら、それもいいかもしれない」
「その頃隊長はジジイじゃないすか。俺の姪に介護をさせる気ですか?」
「なるほど。それも俺にとっては悪い話じゃないな。でも張家のみなさんは誰も納得しないだろうね」
「当たり前じゃないですか」
「でこれ、お母さんに届けて来て下さい。往復五日もあれば足りるだろ」
「税金で養っている兵隊を私用のお遣いに出すなんて、主義に反するんじゃないですか?」
「まあこれはなんつうの? 福利厚生? おいしい冬瓜の煮物にありつくことで俺が心身ともに安定していい仕事をできるとしたら、税金の無駄遣いにはならねえんじゃねえかな。こう見えて案外神経使うお仕事なもんでねえ」
「往復五日もかかりませんよ。家までせいぜい半日です」
「季寧が二日半の道のりを神行法しんこうほうで半日で行けるなら、余った時間は好きに使いたまえ」
八角はっかく、大量すぎ。どんだけ冬瓜とうがんの煮物を作らせる気ですか」
「多すぎると思ったら南鄭なんていであらかた売って何かの軍資金にでもすればいいさ」
「この季節に冬瓜とうがんなんて残ってますかね?」
「何をごちゃごちゃ言ってるんだ。お前を柵の外に出す意味が分かっているんだろうな?」
「ええっと、分かりましたよ。女に不気味がられてしょんぼりして帰ってくればいいんですね」
「違う。納吉ゆいのうの段取りを決めて来い」
「黄屯長と申し合わせてでもいるんですか?」
「いや。みんなからそういうことをギャンギャン言われる年頃になったってことだろ。四捨五入したら三十じゃねえか」
「そんなこと言ったら、隊長なんてほぼ四十じゃないですか」
「うん。近頃みなさんボチボチ不気味がって縁談を持ってきてくれなくなったよ。こうなる前に、さあ、今だ。急げ」
「はあ。分かりました」
こうなる前に、という言葉は、ものすごく説得力があった。

《六十八、葫藘絲(フールースー) 終わり / 次話に続く》

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“六十八、葫藘絲(フールースー)(6)” に2件のコメントがあります

  1. 『こうなる前に』という言葉は
    ものすごく説得力あります
    小学生の甥っ子に隊長さんと同じこと言ったことあります(汗)
    ちなみに結婚の次は親の介護の話題になります。
    『お前独身だから暇だろ、だから親の介護しろ』(汗)

    隊長さん季寧くんの性格考えて
    先手をとってた感じですかね?
    具体的な作戦を考えてるとこが
    黄屯長との違いですね

    『ショッケンひにほゆ』は
    ミリタリードタバタアクション小説なんですね。
    ミリタリー系の部分で
    私がスゴいと思ったのは
    隊長さんの部下を凍傷から守るための対応です。
    ネットで凍傷、低体温症のこと調べてて
    八甲田雪中行軍遭難事件のことを知った少し後に、
    小説が冬の行軍の話しになったので
    隊長さんの部下を想う気持ちがスゴくわかりました。
    そんな隊長さんを産み出した
    まるクルルさんはスゴい方だなぁって思います。

    なんか長文になってしまって
    スミマセン
    『ショッケンひにほゆ』にハマったきっかけの一つが
    隊長さんの凍傷への対応てした。
    リアルタイムでコメントてきなかったので、
    今回、書かせて頂きましたm(._.)m

    • 「こうなる前に」、季寧くんには効果絶大だったようですね。
      親子関係だと「こうなる前に」は効果がないようで、「自分のことを棚に上げて何言ってるの」という反発につながるようですが(笑)
      反発から自立につながってくれれば、それはそれで悪い子育てではないかもしれません!?
      子育ては年とともに手が離れていきますが、介護はその逆でしょうから、また全然違う発想が必要そうですね。
       
      季寧くんにお遣いをさせることは会話をしながら思いついたようですが、お遣いの合理的理由(福利厚生)をこじつけながら外出させるところが隊長らしいですね。
       
      『ショッケンひにほゆ』はミリタリードタバタアクションコメディかなと思いますが、先日のツイートでは「コメディ」を付け忘れました。
      コメディなのにシリアスなところがちょっと独特ですよね( ´艸`)
       
      私の三国志デビューはコーエーの歴史シミュレーションゲーム三國志なのですが、その後ナポレオンのシミュレーションゲームも少しやりまして、それがきっかけで『ナポレオン1812』という小説を読みました。
      それはナポレオンのロシア戦役の小説で、それを読んだ頃からずっと寒中行軍のことが気になっていました。
      魏延が230年の冬に涼州を行軍したことを知って、これは寒中行軍だと思い、いろいろ調べながら書いてみました。
      足が凍ったという兵隊さんの足先をあせって口に入れちゃうあたりは隊長らしさがよくあらわれていると思い気に入っています。
      よんよんさんにも気に入っていただけたようでよかったです!

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