六十九、楊儀威公(ようぎいこう)(4)

 部屋の外から李隊長の声が聞こえてきた。
「ああなんかいい匂いがするよ~? なにこれ八角はっかく~?」
言いながら、顔を上に向けて鼻をクンクンさせながら、李隊長がふらりと部屋に入って来た。
「はい。微量ですけど。よく分かりましたね」
「オレ八角の香り大好きなんだよ~」
言いながら皿のほうに顔を近づけてクンクンする。
「この張季寧のお母さんの手料理なんですけど」
「へえ、美味しそうだねえ」
「すごく美味しいですよ。きっと病みつきになるから食べないほうがいいです」
「えっ、分けてくれないの?」
「季寧先生のご意向としてはいかがですか、御母堂の手料理が上官の友人にまで広まるというのは」
「ええっと、お袋はぜったい恥ずかしがりそうですけど、召し上がりたかったらどうぞ。田舎料理です」
「わあ、嬉しい! 家庭の味!」
「そうそう家庭の味! 貴重ですよね!」
さっさと結婚して奥さんに作ってもらえって。嬉しそうに料理を囲む独身中年たち。
「ああ美味し~い! 醤油とか入ってないところがいいねえ~。こういう薄っす~い甘~い味、大好き!」
「冬瓜の美味しさが本当に素直に出てますよねぇ」
大絶賛じゃないか。調味料が少ないのは、裕福じゃないからケチってそういう調理法にしているのが癖になっているだけだ。俺は醤油とかドバドバ入ってるほうが断然旨いけどな。
白湯さゆ飲みませんか、白湯さゆ。この美味しさに最もふさわしい飲み物は白湯さゆですよ!」
「ああいいねえ、白湯さゆ。ちょうだい」
二人して旨そうにお湯を飲む。貧乏人ごっこをして遊んでいる馬鹿貴公子のようだ。実際は、家庭の味に素直に感動している可哀そうなみなしごなんだろうけど。
「ああ美味しかった。いい体験をさせてもらったよ。これで十日間くらいはもちそうだよ」
「そんなに大変なんですか?」
「アハハハ、べつに。いつも通りだよ。愛情の貯金をお腹に入れておくと寿命が伸びそうだよね」
「きちんと料理してもらったものを食べるっていうのは、そういうことかもしれませんね」
「異度くんは、楊長史ようちょうしにおいしいものを食べさせてもらってづけされているのかい?」
「いえ全然。飴玉一つ貰ったことありませんよ」
「ほんとに? じゃあどうして楊長史は異度くんのことを飼い犬なんて呼んだんだろうね」

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“六十九、楊儀威公(ようぎいこう)(4)” に2件のコメントがあります

  1. 冬瓜の料理、美味しそうてすね!
    母親が料理してたころは、
    ちょいちょい食卓にあがってました。もう何年も食べてないですね。

    飼い犬?
    今回のタイトルが気になってましたが、何があったんでしょうか?

    想像するだけで恐ろしい!?
    隊長さんの彼女の件は
    私が考えている以上に大変なこと
    みたいですね(汗)

    漫画もゲームもお兄様の影響なんですね。
    私は高校の時、姉の別冊マーガレットにハマりましたよ(笑)
    さすがに自分で少女漫画を購入することはありませんでしたけど……

    まるクルルさんは
    研究熱心で客観的に物事を判断する方かなと
    私はイメージしてますよ?

    • 冬瓜はこれから旬ですよね。
      (夏に収穫して冬までもつから冬瓜と呼ぶそうです)
      私の母は冬瓜の料理はほとんどしませんでしたが、冬瓜の煮物というとお袋の味のイメージがあります。
      お袋の味風の料理を出す居酒屋とかで食べたんでしょうか(^^;)
       
      隊長と楊儀の関わりはこれまで全く語られていませんでしたが、季寧くんの見ていないところで隊長はいろんな人と関わりをもっています。
      季寧くんの見ていない部分までいろいろ想像しながら読んでいただくと面白いかなと思います♪
       
      隊長と元カノの関係は自然消滅ということになっているんだろうと思いますが、元カノがいつまでも他の男性と結婚しないというあたりがちょっとホラーっぽいかなと……
      新しいスタートをきってもらうためにはきちんとお別れすることが必要なのではないかと思います。
       
      よんよんさんはお姉様の漫画を読んでいらっしゃったんですね。
      少女漫画でも少年漫画でも、読んでみるとちゃんと説得力があり面白いですよね!
       
      なるほど、シュミレーションゲームをやってから本も読んでみるのはちょっと研究熱心かもしれませんね(笑)
      物事の判断は完全に主観に基づいているのですが、自分の判断が主観に基づいているという自覚があるところは客観的かもしれません。
      よいイメージを抱いていただいているようで、おもはゆいです(^w^)

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