七十、蜂追い(2)

 隊長が一枚の地図を広げて、屯長たちを集めて言った。
「これから俺が蜂に目印をつけるから、みんなはその蜂が巣に戻ってくのを追跡して巣のありかをつきとめて下さい。これがここらの地図だから。どうやって追跡するか皆さんで計画して下さい」
「何か計画が必要なんですか?」
「うん。蜂は人間様の越えられないような断崖でもすいーっと飛んでっちまうからさ。あらかじめ手分けして配置しとかないとだめだろ。あと、合図とか集合の仕方とか決めて。一刻以内」
「一刻ですか?」
「そ。一刻以内に計画決めて、三刻以内に配置完了しろ。ちなみに、この季節のオオスズメバチの行動範囲は広くてもせいぜい五里だ」
言いながら日時計らしきものを地面に描いて、棒を斜めにぶっ挿した。
「三刻経ったら俺は蜂を誘う餌を設置して、蜂が来次第目印つけて飛ばしちまうからな。はい、始め」
遊びなんて言って、ガッツリ訓練じゃん。

 屯長たちが必死に地図上を指差しながらああだこうだと言っている。隊長は我関せずで横の渓流に釣り糸を垂れ始めた。
「優雅ですねえ」
「仕事だ。三刻経つ前に蜂を誘うための餌を捕獲しなけりゃならない」
ふうん。そこからやるんだ。
 餌はべつに蛙でも昆虫でも何でもいいらしい。魚の方が臭いがあるぶん早く蜂が食いつくらしい。ほんとかな。ま、どうでもいいけどさ。もうじき三刻かという頃、隊長がおもむろに小枝の先に魚の切り身をぶっ挿して日時計のそばに立てた。さっきから時々蜂の姿を見かけるから、きっとここは蜂の通り道なんだろう。
 他の連中はとっくに定められた配置についている。うちの屯は、屯長が一番後輩だから、必死こいて追わなきゃならない距離が最も長くなるであろうこの場所に待機させられている。ここを中心として、どっちの方角に蜂が飛んでいくのか。蜂の飛んでいく方に待機している連中は走る距離が短くて済むだろうし、蜂の飛んで来ない方角の連中は蜂を追うという行為そのものをしなくて済むだろう。
 ほどなく蜂がやってきた。魚にかじりついて、背中を丸めながら一生懸命カジカジとやっている。あごで肉片をかじり取って団子にして巣に持ちかえるのだそうだ。一心不乱に肉団子作りをしている蜂に、隊長がそーっと目印の綿を取りつける。団子を作っている間は作業に集中しているから、その隙に体に綿を巻きつけるのだそうだ。取り付けが終わると、隊長は愉快そうに高笑いをした。
「目印ちっちゃめにしたから、猛烈な速さで飛び去ると思うぜ。みんなも負けじと猛追しろよ」
本当は、目印は蜂が飛べるギリギリまで大きくして飛翔能力を削ぐものらしいが……。

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“七十、蜂追い(2)” に2件のコメントがあります

  1. 蜂に目印?って綿のことだったんですね。
    蜂に綿の目印は、まるクルルさんのオリジナルアイディアですか?
    それとも実際に存在してるものなのかな?

    蜂を追うなんて、どうやるのか
    まったく想像てきません。
    今後の展開スゴく楽しみです。
    (^з^)-☆

  2. 長野は東京などと比べると比較的昆虫食が盛んなようで、以前テレビで長野の人が蜂追いをしている様子を見たことがあります。その時は綿をつけていました。
    日本テレビの番組「ザ!鉄腕!DASH!!」でも蜂追いをしていたことがあり、その時は細長い布をつけていました。
    蜂の飛翔能力を殺ぎながら目印にもなればいいのかなと思います。
     
    テレビで見た蜂追いは、子供みたいにひたすら一生懸命追いかけるというものでした。
    大のおとなが山を走り回っている様子はなかなか楽しそうでした。
    『ショッケンひにほゆ』の兵隊さんたちも元気に走り回ってくれると思います。
    どうぞお楽しみに!

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