七十一、水魚(すいぎょ)(1)

 おとといから隊長は羌族きょうぞく新兵たちと一緒にお泊り遠足に出かけている。奴らがいないと兵営の中がガランとする。俺たちは三人ぽっちの部屋の中で、
「あ~広いなぁ」
と言いながら、わざと部屋の隅から隅までゴロゴロと転がって遊んでいる。
「退屈すぎ~」
「脳みそ腐る~」
「誰だよさっきから廊下を走り回って遊んでる奴はよお」
「仲純が走力の錬成でもしてるんだろ。外は雨だから」
「暑苦しいなあ。仲純なんだから外でやれよ。濡れるのイヤなんて甘ちゃんかよ」
雨か。そういえば、隊長は雨に濡れるのが大嫌いな甘ちゃんなんだっけ。今頃どうしてるかな。きっと、バッチリ雨具を着込んでいることだろう。あの人はピカピカの晴天でも長時間の外出に雨具の準備を欠かさないからな。変な奴。
 俺たちが退屈なまま何事もなく眠りにつき、スヤスヤと熟睡している最中、羌族の連中がドヤドヤと帰って来た。チッ。真夜中なんだから静かに行動しろよな。どこでどんな活動をしてきたのか知らないが、何やら生臭いにおいを発しながら
「オー、寒イー」
と騒いでいる。最近、連中の間では羌族同士でもちょくちょく漢語を使うのが流行っている。この現場だけで流行っている若者言葉のような感覚だろうと思う。同様のノリで、俺たちも漢族同士の会話で時々羌族の言葉で「眠い」とか「かったりい」とかいうたぐいの単語を使うことがある。
 真夏なのに「オー、寒イー」って、よっぽどひどい目にってきたんだな。この時間まで仮眠もなしで濡れながら歩いてきたんだろう。俺は睡眠を妨げられて不機嫌なままゆらりと起き上った。
「なんか食ってきた?」
彼らは突然ウキウキとした調子になって言った。
「食べましたよ~、当帰鶏湯タンクイチータン!」
「旨かった?」
「この世のものじゃないっすね!」
そうかよ。よかったな。遠足の締めにおいしいごちそうで兵隊さんの胃袋をつかむのはやつの得意技だ。

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“七十一、水魚(すいぎょ)(1)” に2件のコメントがあります

  1. 隊長さん、胃袋を掴む得意技を発動ですね!
    雨具をバッチリ着込むのは、低体温症対策ですかね?

    まるクルルさん、晴れ女なんですね!今週末、小学生の甥っ子の運動会なので、学校に来てほしいです。

    娘さんを生暖かく見守ってるんですね。
    私、甥っ子や姪っ子の子守りをしてると、自分の子供の時は愚かだったなと感じます。今の子供たちの語彙力スゴいです。
    子供から学ぶことたくさんあります。

    • 隊長の得意技はいくつもありますが、胃袋を掴むのは誰にでも使えていいですね。食べた人も食べている間はハッピーです。
       
      隊長がふだん神経質なほど雨への備えを欠かさないのは以前川で溺れたことがあるからです。
      本人いわく「濡れるの大嫌いなんですよ。小さじ一杯ほどでもイヤです」だそうです(十一、蟻地獄(2))。
      低体温症予防にももちろん大切なことですね。
       
      私は小学校から高校までの運動会は雨天延期になったことが一度もなく、遠足は1回だけ雨で雨天用のコースに変更になりました。 
      何回もある行事のなかの一度だけ雨というのは結構な晴れ女ですよね!?
      運動会に行けばお役に立ちそうですね。
      週末、ちょうどいい天気になってくれるといいですね!

      子供から学ぶことは本当にたくさんありますね。 
      子供のいちずさや、身の回りの小さなことに感動できる感性は、見習いたいなぁと思います。

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