七十一、水魚(すいぎょ)(4)

「え、てっきり、それは申し訳ないことしたなぁとか言われるかと思っていたのに、ざまあみろときましたか」
「たった一杯のお茶で眠れなくなるとは、お子ちゃまだな。おっと失敬」
わざとらしく口を押さえてクックックと笑っている。そこまで笑うほどのことかよ。
「何が可笑しいんですか? 他人を小馬鹿にして笑う以外に趣味ないんですか?」
「え~、おれ趣味いっぱいあるじゃん。毎日忙しいよ。趣味に支障が出ないようにさっさと書類を捨てなくちゃ」
楽しそうにしゃべりながら次々と書類を捨てる。ほんと、内容どうやって把握してるんだろうな。
「隊長はお茶飲んだあと寝ないで遠足中に溜まっていた書類を捨てたりしてたんですよね?」
「そ。書類が几案きあんの上にっかってるとムカつくからな」
「じゃあ、それ終わったあと朝礼なんて出ないで一日寝とけばよかったじゃないですか」
「美しい朝日を拝んでからスヤスヤとおねんねしちゃう? クーッ、贅沢ゥ!」
「ほんと貧乏性ですよね。目障りなんですけど」
「へっ。ざまあみやがれ」
「昨日だって、濡れたもの触るのイヤだったら自分でやらないで無戈むかのやつを引きとめてやらせればよかったじゃないですか」
「季寧が来てやってくれたじゃん」
「そうやって部下に気を回させないで、何も考えなくていいようになんでもかんでも指図さしずしてやるのがいい上官なんじゃないですか?」
「じゃあどうする? ここにポンコツって書いとく?」
隊長が自分で自分のひたいを指差しながらこう言うので、筆を執って書こうとしたら、隊長はのけぞって筆を手で押しのけた。
「やめろよ」
「ってか自分、字、書けませんしね」
隊長は俺を指差しながら声を立てずに笑い転げた。
「寝不足で笑いのツボがおかしくなってません?」
依然として声を立てずに目に涙まで浮かべながらバカウケしている。
「だから、たとえ美しい朝日が昇ってこようとも寝るべき時にはしっかり寝なくちゃだめじゃないですか。その貧乏性、誰に似たんですか?」
「諸葛孔明」
俺が不意を突かれてぽかんとしていると、隊長はニマニマと笑った。
「丞相閣下が、俺も頑張ってるからみんなも頑張れよ~っておっしゃってんじゃん? いや、違ったかな? みんなが頑張らねえから俺ばっか一人でせかせか頑張んなけりゃならねえってグチってたんだっけ? ギャハハハハ」
隊長のこの言葉には解説が必要かと思う。

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“七十一、水魚(すいぎょ)(4)” に2件のコメントがあります

  1. 季寧くん……イライラしてますね(汗)

    タイトルが『水魚』なので、
    諸葛孔明の話題なるとは思ってましたが、どんな展開になるか
    楽しいです。
    季寧くんがイライラが更に増しそうですね

    関東に台風接近してますね。
    お気をつけ下さい。
    通過後の後片付けで
    お忙しくなると思うので
    今日はこのへんで失礼します

    • 季寧くんは隊長の貧乏性なところが気にくわないようですね。
      体力温存形の季寧くんには理解しがたい行動様式なんだろうと思います。

      タイトルの「水魚」はお察しのとおり、劉備と諸葛亮の「水魚の交」からとりました。
      珍しく劉備のせりふもありますのでぜひお楽しみに!
       
      台風は私の住んでいる場所からはそれていったようで、朝起きたら晴れていて驚きました。
      昨日のうちから玄関に子供の長靴を出しておいたのですが、朝になってからスニーカーに戻しました。
      よんよんさんのお住まいの地域はどうでしたか?
      水不足も困りますが、大雨も大変ですよね。気をつけて過ごしたいと思います……。

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