七十三、檳榔(びんろう)(1)

 秋の気持ちのいい季節に大規模演習を行うことは恒例行事になりつつあるようだ。今年も漢城かんじょうの連中と紅白戦を行ったのだが、今回は隊長はべつ司馬しばとして羌族きょうぞく新兵を率いて漢城側に加わっていて、俺たちとは別行動だ。うちの部隊は黄屯長の指揮下でごく普通に野戦に参加して、まあまあちゃんとやったけど、取り立てて目立つような活躍はなかった。
 会戦の結果は、当方の勝ちだ。三回連続で征西せいせいの勝ちだ。俺たちは当たり前のように凱歌を歌って焼き肉を食って騒いでいる。漢城側の連中も、それなりに楽しくやっているんだろう。演習なんて、終わってしまえば後は和気あいあいだ。
 韓司馬の羌族部隊も取り立てて目立った働きはなかったようだが、まあやるべきことはちゃんとやったんだろう。新入りくんばっかりだから、動きの確認程度のものだったんじゃなかろうか。前々回の紅白戦で我々がきょう征南せいなんの指揮する虎歩こほぐんを追い詰めたのは至弱を以て至強に勝ったかのような気がしていたが、思えば、あの時の虎歩軍は第一次北伐で員数が減って大幅に増員された後だったから、精鋭とは名ばかりの慣れない連中だったんだ。そう考えると、慣れない連中を率いてちゃんと戦わせていたきょう征南せいなんは、やっぱすごい人に違いない。
 隊長が異民族新兵の部隊長になった時には、ジタバタと要らぬ働きをすると丞相にとがめられたように解釈して落ち込んでいたが、その解釈は間違いだと思う。丞相は期待している人にわざと難しいことをやらせる癖があるんだ。丞相の人物鑑定七つの法則の第四に、「これにぐるに禍難かなんをもってしてその勇をる」というのがある。困難なことを命じてみて、くじけずやりとげるか見てやろう、っていう意味だ。隊長は最初にぶつくさ言っていたわりにはきちんとやっているようだから、丞相を失望させてはいないだろう。ひょっとすると、近々お別れかもしれない。南鄭なんていから足抜けして漢城かんじょうにどっぷり浸かるという意味で。

 演習が終わり、羌族たちも隊長も何事もなく南鄭に帰って来た。っていうか、現地でうちの部隊と合流して一緒に帰って来た。羌族の連中は、負け戦だったにもかかわらず、釣りででっかい魚をいっぱい釣って帰って来たガキンチョのようにキャッキャキャッキャとはしゃいでいる。初めての大規模演習が面白かったんだろう。
 兵営に戻ってひととおりのことを済ませて隊長室に行くと、隊長が楽しそうにペタペタと小麦粉の生地を一口大に成形していたからびっくりした。
「あのお、やることいくらでもあるでしょうに?」
「うん。優先順位を考えたら、やっぱこれが一番先かなぁと思って」
言いながら、に置いた鍋にお菓子の生地を並べて焼き始める。ほどなく、部屋の外から李隊長の声が聞こえてきた。
「ああ、いい匂いだねぇ。異度くんのオレへの愛情を感じるよ」
「ちょうどお茶も入ったところですよ。どうぞ」
隊長が当たり前のように几案きあんの上にお茶を置いていると、李隊長がふらりと部屋に入って来た。

※「これにぐるに禍難かなんをもってしてその勇をる」:出典は『将苑』です。
「はじめての三国志」のこちらの記事でご紹介させていただきました。
 ↓
【将苑】諸葛孔明の人物鑑定7つの方法

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“七十三、檳榔(びんろう)(1)” に2件のコメントがあります

  1. 今回の遠征は無難に終わったんですね。
    隊長さんの部隊が負けるなんて、
    なんか珍しいてますね?
    『お前ら負けて悔しくないなかぁ!
    俺は悔しい!!』
    昔の青春ドラマみたいな展開になるのかな?

    甘いお酒好きなので、蜂蜜酒に興味ありました。
    以前、ダイエットを頑張ってたたきに、蜂蜜もちょいちょい利用しましたし、夏バテ防止にも良い可能性もあるのでスゴい楽しみです。
    ちょっと値ははりますが、
    自分へのご褒美ということでいいのかなと思ってます。
    夏バテ防止でニンニク注射するって考えるより、蜂蜜酒は夢あります(笑)

    • 隊長は部隊をよくまとめますが、部隊が役立ててもらえるかどうかは司令官次第です。
      『ショッケンひにほゆ』では魏延はスパルタ式の離れ業も使う将軍で、諸葛亮はまともな手順を踏んで戦おうとする司令官であるという、そんなキャラクター設定になっております。
      魏延の師団は南鄭の駐屯地にいて、諸葛亮の司令部はそこから20kmほど離れた漢城にいるという設定です。
      隊長は南鄭と漢城との兼任で(滅茶苦茶!)、今回は漢城側の仕事で諸葛亮の下にいました。
      この諸葛亮は猛獣使いみたいなことはやらないので、隊長がいてもいなくても変わらないですね…… 
       
      私が蜂蜜酒を選んだ時は、甘口と辛口があって、辛口を選びました。
      これは蜂蜜のような甘さはなく、スッキリとした白ワインのような飲み口でした(そして香りと後味がほんのり蜂蜜風味)。
      甘いお酒というわけでもないので、それでも大丈夫でしたらいいのですが……
      蜂蜜の健康効果はお酒になっても残っているのかどうか分かりませんが、酒は百薬の長ともいいますね!?
      楽しく飲んでいただけるといいですが!

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