七十三、檳榔(びんろう)(3)

「楊長史さあ、異度くんが挨拶に行ったら手のひらを返したようにご機嫌になっちゃったんじゃない?」
「ニッコニコしてましたよ」
「だろうねえ。あの人、異度くんのこと大好きなんだよ。相思相愛なんじゃないのオ?」
「楊長史はみんなのことが大好きなんですよ。みんながそれに応えればいつでもご機嫌でいて下さる方だと思いますけどね」
「そんなさあ、誰にでもご機嫌とってもらいたいなんて、そんな考え方、甘いよ。ほんとロクでもないね」
「誰も彼も、素直じゃないなあ」
「オレは異度くんに対してはいつでも素直だよ。ほら見てこのつぶらな瞳」
「冗談はさておき、」
「素直じゃないね」
「あ、気持ち悪い」
「それは人に対して言ってはいけない言葉だよ?」
「いえ、いま普通に一瞬気持ち悪かったんですけど、お菓子の油分が多すぎたかな。あ~参った。変な汗かいた」
「きっと楊長史の体臭と混じり合ったお香の臭いを思い出したせいだよ」
「オエ」
「油分、ちょうどいいと思うけどなあ。甘ったるくて油っこいもの、大好き」
李隊長は嬉しそうに二個目を口に入れた。
「異度くんも、もっと軍務に専念すればいいのに。なんかわけ分からない法律に関する話題なんかを振られてもいちいちまともな返事をしているからわけ分からない人たちに絡まれるんだよ。頭からっぽの軍人野郎みたいな顔しとけばいいのに」
「それ十年早く聞いとけばよかったですね。ああでも、いずれにしても南中かんちゅうで丞相と顔を合わせちゃったからにはなんにも知らないふりは通用しないか」
「丞相とはそんなに古いのかい?」
「もう三十年近いです」
「なにそれ。親子?」
「いえ私そんなに若くないですよ」
「なんなの? 養子?」
「童僕です」
「え~、アハハハ。あ、ごめんね笑っちゃった。断じて馬鹿にしたわけじゃないからね。童僕の異度くんはさぞ可愛かったことだろうなと思って想像しちゃった。アハハハ、ごめんね」
「丞相、ちゃんと人頭税払ってたのかな。今思えばもぐりの奴隷だったような気がしますよ」
「もぐりの奴隷? アハハハハ」
笑って吐ききった息をスーッと吸いながら、李隊長はお茶を一口飲んだ。
「ふうん。どうして異度くんは法律に強いのかなと不思議に思ってたんだけどさ、門前の小僧なんだね。条文知ってるだけじゃなくて、制定の経緯からその背景にある理念まで知ってれば解釈間違うことないもんね」

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“七十三、檳榔(びんろう)(3)” に2件のコメントがあります

  1. 隊長さんは、丞相の元にいたから法律とか難しい学問にも詳しいんでしょうね。
    李隊長、好きな人のことをイロイロ知りたいのかな?

    蜂蜜酒届きました。
    20日到着予定のはずなのに(汗)
    家事が落ち着いたから飲もうと思います。
    次回、感想書かせていただきます。

    • 隊長は学問をして当たり前という家に生まれて初等教育は受けていますし、諸葛亮の庵には珍しい本もたくさんあったでしょうから、勝手に盗み読みして勉強していそうですよね。
      立派になっていつか家に帰ろうと漠然と思っていたのではないでしょうか。
      李隊長は誰の話でもイロイロ知りたがっていそうな気がします。情報通ですよね。

      今頃はもう蜂蜜酒を召し上がっているでしょうか。
      注文から届くまでが速いですね。
      お味の感想を楽しみにしています!

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