七十四、襲撃(4)

 人払いが済むと、隊長はお袋から見えないように右の手のひらで左手を隠しながら、その左手の親指と人差し指で丸を作って兄貴の顔を見た。兄貴はへらへらと笑いながら肯定した。
「はあまあそういう事情です」
俺の手当てはほとんど家に入れてるんだけどな~。ま、チビッ子三人もいたら、金なんか貯まらないよね。
「ちなみに、軍からのお祝いはこんな感じで、これは先に受け取ることもできます」
隊長はふところから算籌さんちゅうを取り出して床の上に並べた。兄貴はあいまいに笑った。全然足りませんってことだろう。隊長は算籌に目を落としたままぼそりと言った。
里魁村長を襲撃」
「は?」
「私あの方には貸しがあるんで、しめあげれば何でも出しますよ」
「穏やかじゃないですね」
「もとい、日頃のよしみで何くれとなく協力して下さるはずです」
「どういう繋がりですか?」
「共通の趣味がありまして」
博打ばくちかな?
「立ち入って差し出がましいことまで言って申し訳ありません。全く私の我がままで。情けない話ですけどいつもお世話になっている弟さんに私の二の舞になって欲しくないという思いがありまして」
あのお、ご自分が婚期を逃していることをネタにしてみずかおとしめてまで俺に便宜を図ろうとするのはやめて下さい。
「違うよ。俺が溜まっちゃって待ちきれないからなんとかしてくれって隊長に泣きついたんだ」
兄貴は破顔大笑した。
「なんだ、早く言えよ!」
そして声を落として俺に言った。
「そんなことは最初に俺に言えよ」
「いや、違うんだけどさ」
「違うってなんだよ」
確かに、順序としては上官じゃなくて先に兄貴に言うべき内容だ。どうして隊長が絡んでいるかというと、これが近々遠征が始まるという機密情報に関係しているからだ。それをおおっぴらにできないから隊長は「私の二の舞になって欲しくない」なんていう曖昧な動機を語ったわけだし、俺も「溜まっちゃって待ちきれない」なんてこっぱずかしいことを言わざるを得なかったわけだ。そんな事情を知るわけもなく、兄貴はみるみる不機嫌な顔になっていく。

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“七十四、襲撃(4)” に6件のコメントがあります

  1. 人払いしたのは、隊長さんがお袋さんとイチャイチャするためじゃなかったんですね。

    溜まってるって(汗)
    お金は貯まってなかったのに(汗)

    季寧くん、結婚することを前提で、対応してますね。
    隊長さんの思うつぼですね(笑)

    • 隊長は季寧くんのお母さんに対してはお料理目当てでしかないようで(笑)
       
      季寧くん、貯めたいものに限って貯まらないようですね……(汗)
       
      結婚は、やっぱりしたいんでしょうね。
      あの子のことが気になっているんですよ、きっと!

  2. お兄さんにしてみたら不機嫌になるのはわかります。
    隊長がとてもいい人だってわかっていても、いやいや、わかっているからこそなんでしょうか…やっぱり兄弟ですからね…悲しいやら悔しいやら、複雑な気持ちになりますね(-_-;)

    こんな「事情を知らないゆえに起こるいざこざ」をリアルに描写しちゃうのがすてきです!
    そして、こんな状況を上手にまとめてしまうであろう隊長の手腕が楽しみだったり♪勉強になります(笑)

    • お兄さんは家長ですし、家族思いですから、どうして俺に最初に言わないんだという気持ちは当然おこりますよね。
      みんないい人なのに食い違っていくということ、ありますよねぇ……(しみじみ)
      この先どうなりますことか、次回をお楽しみに!

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