七十四、襲撃(5)

「怒んないでよ」
「だってお前わけわかんないよ」
隊長が割って入った。
「すみません。本当のことを言います」
兄貴の肩に腕をまわしてコショコショと耳打ちを始める隊長。この二人の間柄は不思議だな。しゃべり方は他人行儀なのに動作だけがやたらと親密だ。なんなんだろう。社会人同士の友情ってこんなんなのかな。兵隊稼業だと全てがガキの延長だから、大人のこういう感じってよく分からない。内緒話が終わると、兄貴は深く頷いた。
「そうですね。私も同じ考えです」
何に対して同じ考えだって言ってんのか知らないけどさ。近々遠征が始まるという情報を相手の家に伏せといてしれっと婚儀を成立させてやろうって話かな。こんな企みは、相手の家にとってみればひどい話だと思う。しかし兄貴も隊長も、相手の家に公正な態度で臨まなければならないという気持ちよりも、身内である俺に便宜を図ってやりたいという気持ちのほうが強いんだろう。相手の家だって、俺が兵隊なのは知っているし、遠征が始まれば何年も不在になったり最悪帰ってこなかったりするかもしれないということも承知のうえで縁談を受け容れたのだから、その遠征がいつかあるかもしれない未来なのか目に見えた確定したものであるのかの違いだけだ。後からガタガタ言われたら、「遠征があるなんて情報は知りませんでした」ってしらをきるまでだ。身内になってしまってからきっちり責任をとればいいんだ。もし結婚したら俺は戦場で隊長を盾にしてでも必ず生還して残りの人生のほとんどを彼女を幸せにすることに捧げるであろう。
 隊長は兄貴の言葉に頷いた。
「では、手段を選ばず話を進めたほうがいいですね? まずは里魁村長を襲撃」
兄貴は頷いているが、俺は心配だ。
「あのお、そのことでうちと里魁村長との関係が悪くなるような心配はないんでしょうか」
「俺の顔でやるから心配しないで」
どんな顔だよ。怖えな。兄貴はちょっと考えてから言った。
「となると、あとはいい日取りがあるかということと、先方のご都合次第です」
「日取りはどこの五行家ごぎょうかに選んでもらっていますか?」
東郊とうこうの楊先生です」
「ああなるほど、じゃ私がひとっ走りジジイをしめあげ……じゃなくて、早い所でいい日を探して頂くようお願いしてみます。他に何かありますか?」
「いえ、特には……ははは、びっくりですね。話が早い」
「せっかちなもんで」
隊長は兄貴とお袋に交互に顔を向けてへこへこと詫びた。お袋はにこにこと笑ってまたとんちんかんなことを言った。
冬瓜とうがん、召し上がります?」

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“七十四、襲撃(5)” に2件のコメントがあります

  1. 隊長さんナイスフォローですね!

    『隊長を盾にしてでも必ず生還する』って、季寧くん結婚に向けて過激なこと考え始めましたね(汗)

    隊長さんなら『戦場でよそ見してんじゃなー』とか言って、自分から盾になりそうな気もします。

    今回、料理が絡んでこないなって思ってたら、最後の最後に冬瓜でて来ましたね!
    村長さん襲撃前に、腹ごしらえですかね

    • 機密情報をありのままにしゃべっちゃったみたいですね(笑)
      機密と言っても、物や人の動きを見れば誰にでも予想がついてしまう動きでしょうから、ぺらぺらしゃべらないのはエチケットだよという程度のものです。
      耳打ちというのはぎりぎりエチケットを守ったことになるのではないかと!
       
      誰を犠牲にしてでも生還するというのは、季寧くんはきっと軍隊に入ったその日から決意しているだろうと思います。
      家族が一番大事で、軍隊にはイヤイヤ来ているだけなので……
      隊長は、手が回れば助けてくれるかもしれませんが、たぶん会戦の途中には無理でしょうねぇ……。
       
      お母さんは隊長の好物だと思ってはりきって冬瓜を用意していたんでしょうね。
      愛情のこもった家庭料理。素敵です!

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