七十四、襲撃(6)

 俺の家でちょこっと酒を飲んで、冬瓜その他いくつかの田舎料理を食べて、先方との交渉には隊長は入って行けないから兄貴によろしく頼んで、日が高いうちに帰路に就いた。道中、楊屯長が隊長に訊ねた。
「今日このあと先方のお宅も襲撃するのかと思ってましたよ」
「そのつもりだけど?」
「さっき季寧のお兄さんに託してませんでした?」
「うん。なんにもつてがないから俺が押しかけてあれこれ話す感じでもねえなと思ってさ。だから今日は偶然近くを通りかかったみたいな顔をして名刺でも置いて帰ろうと思ってるんだ」
「わざわざ行って名刺を渡すだけなんですか?」
「そ。だからあくまでも偶然通りかかりましたってふうにしとかないとおかしいね」
「なんのためにそんな回りくどいことをするんですか?」
「えー、知り合いでもないお家にいきなり上がり込むなんて非常識じゃん。だから今日知り合いになっておくんだよ。次への布石ふせき
俺は空恐ろしくなって訊ねた。
「あのお、隊長、今後もちょくちょく相手の家を襲撃するつもりなんですか?」
「いや、何事もなく晴れてご婚儀が成ってその後も夫婦円満だったらそうそう行くこともないだろう」
「そうならない場合を想定しての布石なんですね」
「あらゆる可能性を想定して常に手詰まりにならないよう先手を打っておかないと」
帰路についていると思い込んでいたが、隊長は勝手知ったる足取りでちゃっかり俺の許嫁いいなずけの家に向かっている。有り難いのか迷惑なのか分からない気分だ。
 女の家は、俺の家とあんまり程度の変わらない農家だ。近所の住民も似たようなもんだから、バリッとした身なりの武官様がお供を三人も連れて歩いていると目立ちまくりで、遠巻きに人垣ができている。
「馬で来たほうがよかったかなあ」
「えー、そんなことしたらよけいに浮くじゃないですか」
「季寧先生が、ただの兵士じゃなくてご大層な武官様のお気に入りの精兵だって思ってもらっといたほうがよくねえ? そう思って俺今日めいっぱいまともな格好してきたんだけど。季寧先生の足を引っ張らないように。ああどうしよう、変な冗談思いついても口に出さないように我慢しなくっちゃ」
「はあ。そうですね。めいっぱいまともそうに振る舞っといて頂いたほうが。……ありがとうございます」

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“七十四、襲撃(6)” に6件のコメントがあります

  1. さすが隊長さん、スキがないですね。
    先手をうってるなんて、某赤い彗星みたいです。

    季寧くんの上司が三人も現れたら先方のご両親も安心するでしょうね

    • 韓隊長も李隊長もたぶんニュータイプだと思います( ´艸`)
       
      季寧くんの上司が三人も現れたら先方がどんな反応をするか、次回をお楽しみに!

  2. 名刺には痛いおもひでがww

    遡る事数十年前…
    ((((;゜Д゜)))そんなに経つのかw

    総務からはじめて自分の名刺貰った時、いきなりの誤字ヽ(ヽ゚ロ゚)ヒイィィィ!!

    研修終わり、いざ外回り。
    上司からとにかく名刺配れ顔と名前覚えてもらえとハッパかけられまくるも、当然新しい名刺が間に合うわけもなくw
    まだ修正テープもない時代、自分の名刺にひたすら修正液塗りまくって上から手書き(ノ∀`)アチャー
    乾く前に書いて相当数無駄にしたなぁw

    そんな初々しい企業戦士ガンダムだった昔を思い出しました♪

    朱然の名刺はどんなだったんだろ♪

    • googleで「丹陽朱然再拝」というワードで検索したらこの論文がでてきました。
       ↓
      漢晋時期における名謁・名刺についての考察
       
      俳句を詠む人が使う短冊に似た形状の木簡に、楷書体のはしりのような堂々とした字で出身地、名前、挨拶文などが書かれているようですね。
       
      新人で右も左も分からない時に誤字の名刺をもらったらとまどいますね(´Д`)
      発注した人のせいにするわけにもいかないし……
      一生懸命修正インクをぽちゃぽちゃやっている若き日のお姿を想像してしまいました~( ̄∇ ̄;)

      • いや〜…紙でよかった。
        時を超え私の手書きの名刺が出土して30ページに渡る考察をされた日にゃ…「あの世じゅうの笑い者」になりますね(≧∇≦)

        あの世でたまたま隣に居合わせた袁術に「おぅニィちゃん黒歴史暴かれたなwまぁそんな事もあらぁ。蜂蜜食うか?」とか慰められたり
        隣に居合わせた楊修に鶏肋仕立ての白湯スープふるまわれたりしたら…

        うん。案外楽しそうだなw

        • 失敗談から人とうちとけることってありますよね♪
          なるほど、あの世では歴史上の人物とも仲良くなれるチャンスがあるということですね。
          袁術と蜂蜜パーティー。楊修と鶏肋スープ。楽しそうです!

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