七十九、蜜柑(みかん)(2)

 あの全身にまとっている寂しい感じをどうにかしたいと思うのだが、誰にもどうすることもできない。毎日わあきゃあ言ってじゃれ合っていても、一緒に美味しいものを食べていても、あるいは、生死を共にしたとしても、隊長に欠落しているものを補うことはできないだろう。
 俺は王仲純おうちゅうじゅんという奴のことを、とにかく体を動かすことが大好きな筋肉バカだと思っていたが、最近、どうもそういうわけじゃないらしいと分かって来た。どういう事情だか知らないが、仲純は営門から一歩出るともうどこにも居場所のない奴らしい。あいつが無闇に体を鍛えるのも、上官に擦りよるのも、シャバで誰からも評価されていないからだと思う。軍隊では戦技が優れていれば問答無用に評価されるから、それだけの理由でジタバタやっているんだ。隊長が仲純ばっかり贔屓ひいきして一緒に遊びに行ったりしているのは、たぶん、仲間の匂いがするからだろう。

 近くで白菜を刻みながら追加の料理の支度をしてくれているおばちゃん達が、ぺちゃくちゃとしゃべっている。ちょっと若い感じの丸まっちいおばちゃんが、大袈裟に溜め息をつきながら言った。
「あ~、今年は隊長さんが来ないなんてねえ。目の保養なのに」
すると若い感じのお婆ちゃんが笑って言った。
「目の毒だよ」
年輩な感じのおばちゃんが相槌あいづちを打った。
「そうだよ~。現実と全然違うんだから」
みんなしてドッとウケてころころと笑っている。そんなとこでウケていて、ご主人が怒らないんだろうか?
 最初に「目の保養」と言っていた丸まっちいおばちゃんをよくよく見ると、それは何年か前に隊長に蜜柑を投げていたうら若い乙女のうちの一人に経年変化を加えた存在であった。びっくりだ。俺はこの五年という期間に一カ月ほどの変化しかない気分でいたが、シャバではこれほどの早さで歳月が流れていようとは。あるいは、かつて隊長が言っていたように、男の半年は女の五年に相当するということかもしれない。

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“七十九、蜜柑(みかん)(2)” に2件のコメントがあります

  1. 隊長さんも仲純も、たとえ軍隊でも、自分の居場所があって良かったんじゃないかと思います。

    『男の半年は女の五年に相当する』
    ちょっとドキっとしました。

    個人的には最近、逆パターンがあったような、なかったような(汗)
    私は老いたのに、彼女はますます綺麗なったような、なってるような(汗)

    234年、第五次北伐ですね。
    ショッケンひにほゆ
    ラストが近いのかと思ってましたが
    Twitterの今後の予定見ると
    まだまだ続きそうですね
    楽しみです

    • 営内は民間から隔絶されていますので、その場所での役割をこなすことさえできれば世間での評価にかかわりなく認めてもらえますね。
      隊長も仲純もこの居場所を大事にしているだろうと思います。
       
      逆パターンといえば、二年ほど前に高校の同窓会があり、女子はわりと変わっていなかったのに、男子はなんというか……貫禄がお腹周りについた人が多かった気がしました(汗)
      他のもの(スキルとか人脈とか)も身につけていると思うので、脂肪が身についても「貫禄」という肯定的な言葉遣いになるわけですけれども(笑)
       
      いよいよ第五次北伐が始まりますが、いくつかイベントが発生しますからまだまだ続きます。
      ぜひ気長におつきあいいただければと。
      今後ともよろしくお願いします!

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