八十、韓英異度(かんえいいど)(5)

 やっぱり丞相じょうしょうの子分たちと一緒に仕事をするのは面白くないらしい。いつも漢城かんじょうに行く度に何か毒気に当てられたような顔して戻って来てたからな。あっちが襄陽閥じょうようばつの文人で固められているとしたら、隊長なんか語るに足りない軍人野郎としか思われていないだろう。丞相が隊長を部曲督ぶきょくとくに据えた時に「なかなか君のようにぴったりな感じの人がいなくてね。どの人も高不成低不就帯に短したすきに長しでね」と言ったということは、丞相も隊長のことを現場仕事の職人としか思っていないだろう。どんな戦略を立てようと聞く耳を持つはずがない。
 戦略? 隊長、戦略なんてあるのかな。長安ちょうあん函谷関かんこくかん洛陽らくよう上庸じょうようを取るんだっけ。荒唐こうとうけいだよ。職人の観点からして、技術的に可能なのかもしれないけど、そんなのはじゃみちへびの同業者にしか通じない話だろう。文人にそんなことを言って信用されるはずがない。
 祁山きざんに陽動隊を出しての西部戦線の主力を涼州りょうしゅうにおびき出してから、函谷関かんこくかんおびやかして長安を取る。それと同時にに北征を開始させる。長安陥落と呉の北征開始で魏が恐慌に陥ったところで、洛陽をおびやかし、上庸じょうようを取る。我が国の快進撃の情報を聞きつけて呉が北征の手を緩めてしまわないうちに我が国が洛陽まで取れれば上々だ。この考え方でいくと、最も本腰を入れて攻める場所は上庸か。気軽に「長安を取る」とか「上庸を取る」とか言うのが眉唾まゆつばものだと思われそうだが、それはたぶん、かなり無茶ではあっても不可能なことではないんだろう。そんなことができると信じてる人はめったにいないだろうけど。
 我が国の快進撃の情報を聞きつけたら呉が北征の手を緩める、というのは、呉にとっては我が国が強くなりすぎるのも魏が強くなりすぎるのも困るから、同盟を結んでいるとはいえいつまでも我が国のために働いてくれるわけじゃないというわけだ。だから、呉のことはにぎやかし程度に考えておいて、魏の攻略はほとんど独力で行うと考えたほうがいい。そして、呉に対する警戒も怠れない。魏も呉も、両方とも敵だ。

 李隊長が出て行って、ちょっと間を置いてから天幕の中に入る。隊長は山羊やぎの乳でできためちゃくちゃ硬いお菓子をゴリゴリとかじりながらニマニマと笑った。
「もうさあ、立ち聞きなんてまどろっこしいことはやめて堂々と中に入って何でも聞きゃあいいじゃねえか」
「え~、ヤダ。面倒くせえ」
「立ち聞きの方がよっぽど面倒だろ」
「違うんですよ。それを聞いてるって堂々と認めちゃうと、面倒じゃないですか。あと、内緒話はもっと小さい声でしたほうがいいですよ。外に丸聞こえです」
「べつに内緒話じゃねえ」
「ご自分が思う通りにさせてもらえなくてモヤモヤしているなんていうことをみんなに聞かせていいんですか?」
「うん。韓英が丞相にまともに取り合ってもらえないもんでグレてひがんでるっていう噂が先方の耳に届いたところでカチコミだ」
「え、じゃあその情報は積極的にいといたほうがいいんですか?」
「いや、べつに積極的に撒きたくはないけど。そんな話が広まったとしてもそれはそれで構わない」
「へえ。暴れん坊ですね」
けつらずんば虎子こじを得ずだ」
隊長ははにかんだようにうつむき加減になりながら俺の分のお茶をれ始めた。キモい。

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“八十、韓英異度(かんえいいど)(5)” に2件のコメントがあります

  1. 季寧くん、戦略を語ってますね。
    隊長さんの代わりに、
    季寧くんが諸葛亮に戦略を話せば、「こいつ、見所ある」ってことになり出世しそうですね。

    ダイエット、おやつ減らすんですね。ファイトですよ!
    きっと成果でますよ!

    おやつと言えば
    中国語のラジオ講座で
    『饅頭』を「まんとう」って発音?してました。
    日本酒の発音とほとんど同じに聞こえたので、中国語の方と話す機会あったら、「まんとう」って話してみて、通じるか試してみようと
    妄想してました(汗)

    • 季寧くんが諸葛亮に戦略を語ったら……諸葛亮は季寧くんに対してはお褒めの言葉をかけつつも無視、そして後日隊長が部隊から引き離され左遷されるのではないかと思います……
      街亭の戦い以前に馬謖の部隊の兵士が戦略を語ったのだとしたら対応は全く違いそうですが (。・ω・。)
       
      私の太るもとはおやつだと思うので、まずそれをストップして太るのを止めたいと思います(^^ゞ
       
      中国語の普通話(標準語)で饅頭の発音はマントウです。
      音の高低の付け方で、マンを最初低めからの尻上がりに、トウも最初低めからの尻上がりに発音すればほぼ完璧だと思います。
      中国の方とお話する機会があるといいですね♪

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