八十、韓英異度(かんえいいど)(8)

「ちゃんと新しい門出かどでを祝福して下さいね」
「俺が祝福したくなるくらいその時の季寧が輝いていたら、ちゃあんと祝福するよ」
「あのお、今以上に輝きもしなければ、くすみもしませんよ」
「ふうん。石ころみたいだな」
石ころ、か。うん、そうだよ。俺の人生、石ころ人生。文句あるかよ。玉のように輝いて玉と砕けちゃったら目も当てられないじゃないか。
「建安二十六年なんて、そんな元号を信じてる奴がまだいたとはな」
「そこらへんにゴロゴロしてる庶民はほとんど同じだと思いますよ?」
「恐ろしい話だよ」
「隊長の態度のほうがよっぽど恐ろしいですよ。漢のろくみながらなに言っちゃってんですか? 曹操に飼いならされた青州せいしゅう黄巾兵こうきんへい末裔まつえいなんですか?」
「魏の軍歌では、赤壁せきへきの戦いで曹操が勝ったことになってるらしいぜ」
「え、それ真実と真逆まぎゃくじゃないですか」
「季寧くんの常識も、それと同じ次元かもしれないな」
「どんだけ馬鹿にすりゃあ気が済むんですか?」
「季寧は馬鹿じゃない。頑迷がんめいなんだ」
「ま、べつにどっちでもいいですけど」
「どっちでもいいのか。じゃあ俺から馬鹿にされても怒る資格はないな」
「えー、ヤダ。ムカツク」
俺の十代半ばの女の子みたいな反応に対して言うべき言葉を持たないらしく、隊長は苛立いらだたしげに山羊の乳でできためちゃくちゃ硬いお菓子をもう一つ摘まんでゴリゴリと噛んだ。
「あのお、例えば北部戦線に目途めどをつけるのがたった一年遅れただけで、どんなことが起こるんですかね?」
「物心ついた頃から一度も父親が復員しないまんま大人になっちまう子たちがぼちぼち出て来るよ」
「一年や二年で社会問題にまで発展しますかね?」
「なんつーの? 失われた世代? 親父おやじっていうのは時々薄汚れて帰ってきては家中の食いものを食い散らかしてお袋をおかして出て行くだけの存在だって思いながら育って、自分もいずれそういうふうになるんだと思って過ごしていたら、毎日瞳を輝かせて何かをがんばるような人にはならねえな。北伐の遅延に伴ってそんな世代が年々増えてくわけ。計り知れない損失だよ。だからチャッチャと関中かんちゅうを制圧してそっから先の戦は関中の平和ボケした予備役のご同輩たちにやってもらって俺らは漢中かんちゅうでせいぜい幸せに過ごそうぜ」
「え、結局ご自分の幸せのために戦ってるんですか?」
「未来の社会を輝かすためには大人が輝いてなくちゃだめなんだ」

ページ公開日:

“八十、韓英異度(かんえいいど)(8)” に2件のコメントがあります

  1. 「未来の社会を輝かすためには大人が輝いてなくちゃだめなんだ」
    ドキッとしました。
    私は薄汚れてしまったなぁ(汗)

    隊長さんは一生懸命だから
    冷静になれなくて、
    諸葛亮と対立しちゃってるんですね。
    たた、諸葛亮も漢室復興に
    一生懸命で、冷静になれてないかもしれませんね。

    沖縄、40度は記憶にないですね。
    今年は猛暑日も今のところないですね。

    気象庁のwebサイトで海の温度をチェックしてるんてますが、
    8月上旬にくらべると
    今は2~3度、海水温が低くなってます。
    それにあわせて、台風10号の影響で
    風が北よりで少し涼しいです。
    日差しは厳しいですが、
    天然のクーラーのお陰で
    今年は、少しすごしやすい感じします

    • 私は子育てをしていて、子供に幸せになってほしいと思ったら自分が幸せに過ごしている様子を見せないといけないかなと思うようになりました。
      お母さんいつもつまらなさそうだから大人になってもどうせたいしたことないんだろう、と思わせたらかわいそうかなぁと。
      子供の目があるから頑張れる、っていうところもあります。笑
       
      小説などで、みんな一生懸命なのに噛み合わずどうしようもない方向に進んでいくという展開が好きです。
      世の中の悲劇の大半はそれで説明がつきそうな気がします。
       
      沖縄は台風の時に北風が吹いたんですね。
      関東では南風が吹き、暑くなりました!
      沖縄の海水温が低くなってきているということは、少しずつ秋が近づいているんですね。
      期間限定だと思って夏を楽しみながら涼しくなるのを待ちたいと思います!

コメントする