八十三、兄弟(4)

 ずいぶん大がかりだな。えんびんまで飛んで来る。いや、火炎瓶じゃない。油の入った壺をぶん投げて来て、そこに火矢を射かけてるんだ。こんな準備までしてあるなんて、今日我々がここに来ることは敵にすっかり読まれていたんだろう。なにこれ~。案外燃える。危ないじゃん。
「あっちに上陸して片っ端から壺を叩き割ってやりてえ」
隊長がぶつくさ言いながらへらへらと笑っていると、呉将軍戦死の報が伝わって来た。矢を受けて水に落ちて亡くなったらしい。隊長がまたしても「北岸に上陸して攻撃」を打診したら、呉将軍の後を継いだ参軍さんぐんは旗で合図を送ってよこし、南岸に退避の指示を繰り返した。
 さっさとしろ。退避なら退避でいいが、そっちつっかえてんじゃねえか。十字射線で狙い撃ちにされながら焼き打ちにも遭いつつ退路塞がってて立ち往生なんて生き地獄だよ。マジか。いいかげんにしろ。こう屯長が隊長に向かって大声で
「筏を捨てて南岸に渡りましょう」
と言った。
「どうやって?」
「泳いでです」
「え~、俺ヤダ~」
「隊長がどうしたいかなんて聞いてないんですよ。合理的に判断して下さい」
「え~、泳ぎたいやつ勝手に泳げよォ。俺ヤダよ~」
「なに言ってんですか? 指揮を放棄するんですか?」
「おっ、いいこと言うね。そうしよう。ほらよ!」
隊長は黄屯長めがけて令旗を投げつけた。
「本気ですか?」
「後はよろしくお願いします、黄屯長。この場を取り仕切るのにはあなたのほうがふさわしい」
「ああそうですか。ヘタレ! 意気地なし!」
「諸君。この場の指揮を黄屯長に交替したぜ。じゃあな。命があればまた会おうぜ」
みんなにわかに動揺する。
「じゃあな、って、おかしいでしょう!」
「一緒に漢中かんちゅうに帰りましょう!」
「指揮を交替しただけで、部隊の取りまとめ責任者はあなたですよ!」
「うっせえなあ。陸地に上がったらちゃあんと職務に戻るよお。今はみんな黄屯長の言うこと聞いてどこへでも行っちまえ。シッシッ」
「無責任! 馬鹿! 薄情者!」

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“八十三、兄弟(4)” に4件のコメントがあります

  1. 予想外の展開!?
    いきなり大ピンチですね、

    強弩は地面に設置するタイブもあるんですね。
    今回、最初から川をくだってくる筏を狙ってますね。
    完全に作戦漏れてますね。

    陸に上がってた方が安全ですよね。
    隊長さん、何を考えてるんでしょうね

    • 上陸さえできればさほどピンチでもないはずですが……水を得た魚の逆ですね(汗)
       
      この会戦は三国志演義の第102回にありまして、そこでも魏に情報が漏れていて襲撃されることになっています。
      その場面を描いてみているのですが、強弩とか火炎瓶とかは私が勝手に想像して描きました♪
       
      頑として水に入ることをこばむ隊長。
      この先どうなるのか……次回をお楽しみに!

  2. おぉぉ呉将軍サクッと逝ってしまわれた。
    人材の層の薄さは三国イチの蜀において将官の損失はなによりも痛手。
    野戦任官で昇進させるべき騎兵隊長は伏せってるし(ノ∀`)アチャー
    どうなる北伐、成るのか悲願…???

    しかし季寧成長したなぁ…状況判断が的確だ。
    隊の古参兵、什長としてならどこへ出しても問題なさそうだ(´ー`*)ウンウン♪
    マンパワーは育ってる育ってる。これなら曹家恐るるに足らず!

    ………あ゛( ̄▽ ̄;)…「発射スイッチの壊れたテポドン」憲ちゃんは…

    うーん…まいっか(≧∇≦)

    • この会戦は三国志演義第102回にありまして、岩波文庫の『完訳三国志(七)』(小川環樹/金田純一郎 訳 1988年7月7日)262ページにはこんなふうに書いてあります↓
       
      「呉班は一手をもって筏を漕がせ、川を下り、浮橋を焼かせようとしたが、張虎と楽綝のため、岸の上より乱れ矢に射すくめられ、呉班は矢を受け水に落ちて死んだ。ほかの兵士たちは水に飛び込んで逃げ、筏は残らず魏の手に奪われたのである」
       
      どんなに偉い将軍でも、混戦下ではあっけないことになるようで……。
       
      季寧くんが什長になれば、部下からは何でも知っている頼もしい上官になりそうですね。
      上から何か無茶ぶりされそうになってもしっかり拒絶して自分たちを守ってくれそうだし、指揮官がバカすぎて全滅しそうになったら「バカくせえ。逃げようぜ」と言ってくれそうだし。
      こんなに頼もしい上官はいませんが、命令に忠実な下士官になるかどうかは分かりません(笑)
       
      あ 幼憲くんですか? うーん…まいっか(≧∇≦)

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